『ヘミングウェイごっこ』

あらすじ

ジョン・ベアドはヘミングウェイが専門の大学教員。とあるバーで論文を執筆中、ある男からヘミングウェイの原稿の贋作づくりを持ちかけられる。これまでも成功した贋作事件の例はある。一攫千金も夢ではない!いつしか贋作づくりに熱中しタイプライターを打つベアドの前に、なんとヘミングウェイその人が現れたことから、自体は思いもかけぬ方向へと…… ヒューゴー&ネヴュラ両賞受賞の中篇を長篇化した異色時間SF!

カバーより

 『終りなき戦い』(感想はこちら)、『終わりなき平和』(感想はこちら)が面白かったホールドマンの作品で、1991年にヒューゴー賞とネヴュラ賞を受賞している。あちこちで言及されていることも多かったので買ってみた。


 ヘミングウェイの研究者ジョン・ベアドが、詐欺師キャッスルメインにそそのかされ、ヘミングウェイの作品の贋作作りを試みる。ヘミングウェイが若かりし頃、原稿を入れた旅行カバンを紛失するといった事件が実際にあったらしい。ベアドが作ろうとするのはその失われてしまった作品の贋作。そもそも元となる原稿自体がないので、作品を書くところから始めなければならない。最初はまったく乗り気でなかったベアドだったが、妻リナにそそのかされ、次第に夢中になっていく。一方でリナはキャッスルメインと共謀し、陰謀を張り巡らせる。


 ミステリタッチで始まった物語は、次第に多次元宇宙もののSFへと変化していく。ベアドの前に、ヘミングウェイの姿を借りた何かが姿を表し、いくつかの異なる宇宙をベアドは体験する。さまざまに変化するバリエーションが面白い。ベアドは本物のヘミングウェイともからみながら、物語はパノラマのように展開する。


 作者がヘミングウェイへのこだわりを持って書いたらしく、作中には本物そっくりにタイピングされた贋作の原稿まで掲載されているなど、たいへん凝っている。見出しにもヘミングウェイの作品の題名が使われていたり、作中にもヘミングウェイの文が引用されていたりと、様々な仕掛けが凝らしてある。作者の思い入れと遊び心が伝わって来る。また、一連の作品同様、作者自身の戦争体験も活かされている。ヘミングウェイの作品にも戦争体験が活かされているので相性が良かったのだろう。


 ラストは勢いづいて書かれているような印象があって、ちょっとわかりづらいが、とはいえよくよく読んでみると矛盾はしていず、うまくまとめられている。テンポが良くて作者のエネルギーを感じさせる作品だ。