『TENET テネット』〜斬新な映像が魅力の時間SF〜

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もしも時間を逆向きに進むことができたらどうなるか。このアイデアを膨らませ、過去へ逆向きに遡る時間(逆行)と、未来へ通常通りに進む時間(順行)を同時に絡ませ、斬新な映像で描いてみせたのが、クリストファー・ノーラン監督のスパイ映画『TENET テネット』だ。

私は最初、Netflixで半分寝ながら観たのだが、これは失敗だった。この映画は一瞬たりとも目を離してはいけない作品だった。一回観ただけでは把握できず、確認のために何度も観直した。しかも0.5倍速で。スロー再生の機能を使ったのは初めてだ。

過去へ遡るという時間SFはこれまでにもあった。しかし、「時間を逆向きに進む」というアイデアの作品はこれまで見たことがない。この映画では、時間を逆行するものは逆再生のように見える。人も車も後ろ向きに進む。銃を撃てば壁にあった弾痕が消えて撃たれる前の状態に戻り、銃弾が銃口から入り、空の弾倉に収まる。

設定は面白いが、テクノロジーとしては実用的ではない。逆行するには「回転ドア」と呼ばれる装置を通る。つまり、「回転ドア」まで行かないと逆行できない。また、1時間前へ逆行するためには1時間かかる。遡りたい時間と同じだけの時間が必要だ。しかも逆再生の状態で動くため、トラブルを避けるには順行社会と断絶して過ごさないと難しい。言葉も逆さまになるので、逆再生する機器が無いと順行側とは話せない。さらに、逆行中は普通に呼吸すらできず呼吸用のマスクや密閉した空間が必要になる。致命的なのは、うっかり「回転ドア」が使えない状況に陥ると、一生順行に戻れないことだ。一人でどんどん時を遡ってしまう。呼吸用マスクやボンベ、食料が尽きたらおしまいだ。おそらく長期間の逆行は難しいだろう。

色々考えると使い物にならなさそうなテクノロジーだが、映像としてはとても面白い。しかも、逆行側と順行側を絡ませてビジュアルで見せるというアイデアが秀逸だ。逆行した人間と順行の人間との格闘では、順行側が殴っているさなか、逆行側がありえない姿勢でバク転して起き上がり、遠くから武器が飛んできて手に収まるといった具合。これまで見たことのない映像で見応えがある。

同じシーンを順行側と逆行側から2回見れるのも面白い。逆行側から見るとまるで違って見えてくる。起きた出来事の順序が逆になるし、例えば「押している」シーンが実は「引っ張っている」シーンだったとわかる。方向性が異なると解釈も変わってくる。

また、2回目のシーンでは、最初は見過ごしていた映像が、実は主要人物の重要な行動だったと明かされることがある。意識してから改めて観直すと、1回目のシーンでも最初からそれが映っていたと気付く。1回しか観ないのはもったいない作品だ。

アクションシーンはやたら大がかりだ。本当にストーリー上必要?と思えることも多い。例えばビルにバンジー跳びでの侵入や、オスロ空港での飛行機の激突などだ。無駄に派手すぎて、目的が途中でわからなくなる。それでも、エンターテイメントとして十分楽しめる。

改めて何度か観ると、派手な演出の一方で映像がめちゃくちゃ計算され尽くしていることに驚く。これを撮影するためには、シナリオも細部まで徹底的に練りあげて作り込まれたはずだ。そして、それを極限まで削ぎ落としている。描かれていない部分も多く、だから分かりづらくなっている。けれども、観る人にはそんな計算された緻密さなどは感じさせず、よくわからなくても派手なアクションとして純粋に楽しめる作品になっている。そこがすごい。

ざっくりあらすじ

名前すら明かされない主人公は、「人類が生き残るための国家を超越する任務」に抜擢された。しかし、任務に関する情報は「TENET」という言葉と左右の指を交差させる仕草のみ。何も知らされないまま任務に就く主人公。やがて明らかになってきたのは、世界を破滅させる未来の兵器の存在だった。

アルゴリズム」と呼ばれるこの兵器は、時間を逆行して未来から送られてきた。一方、これを起動させようと目論む未来人もいて、武器商人セイターはこれと契約。兵器を未来へ送り届けようとする。セイターを阻止するために、主人公と仲介役のニール、息子を取り戻したいセイターの妻キャサリンたちは時間を逆行。主人公とニールはアイブス率いる部隊に加わり、兵器の奪還を試みる。時間の前と後から同時に進行する挟撃作戦が圧巻だ。

また、主人公とニールの自己犠牲もいとわない友情が感動的。真の主役はイケメンニールかもしれない?

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【ネタバレ】派手で見応えのあるシーンの連続

物語はオペラハウスのテロ事件から始まる。しかしこれはテロに偽装した襲撃で、CIAのスパイが持つ「荷」を狙ったものだった。主人公は、素性がバレたこのスパイを保護し、「荷」を回収。さらに観客を救おうと、特殊部隊が仕掛けた爆弾の解除に奔走する。主人公はここで逆行する銃弾を初めて目撃する。敵に撃たれかけていた主人公は、この逆行弾で何者かに命を救われた。派手に爆発するオペラハウス。

その後、「人類が生き残るために国家を超越する任務」に抜擢された主人公は、逆行する銃弾について研究している科学者から情報を得る。彼女のもとには未来から、壁に打ち込まれた逆行弾や、いずれ起きる戦争の残骸などが送られていた。時を超える兵器は未来だけでなく過去も変えることができると、彼女は第三次世界大戦が起きるのを危惧していた。

インドを牛耳る大物武器商人がこの弾に絡んでいることを突き止めた主人公は、寄越された仲介役のニールと計画を立て、武器商人のビルにバンジー跳びで侵入する。妻のプリヤはイギリス在住のロシア人の武器商人セイターにこの弾を売ったことを明かす。

続いてセイターに紹介してもらうために、主人公はその妻キャサリン接触。彼女は贋作事件に巻き込まれ、セイターに証拠を握られ脅されていた。主人公はセイターへの紹介を求め、キャサリンを助けるために、贋作が保管されているオスロ空港の美術品保管倉庫「フリーポート」の襲撃を計画する。

ニールの立案した計画は、倉庫に飛行機をぶつけ、目を逸らすために金塊をばら撒くという派手なものだった。金庫室の中心にある五角形の小部屋を目指した主人公とニール。しかし、人の気配があり、奥の回転する扉から逆行する人物が飛び出してきた。主人公はこの人物と格闘するも、意表を突く動きに翻弄され、逃げられてしまう。

主人公から話を聞いたプリヤは、ここの金庫室にあったのは逆行を可能にする未来の装置「回転ドアだと教える。

【ネタバレ】高速道路で走行しながら強奪! 241は誰の手に?

キャサリンの紹介でセイターのクルーズ船に乗船した主人公。プリヤの発案により、セイターがオペラハウスで狙っていた「プルトニウム241」の強奪を持ちかけた。現在ウクライナ警察がこれを保管、移送される予定だった。主人公は途中のタリンで奪う計画を立てる。大型車4台を駆使し、高速道路を走行しながら強奪するという大掛かりな作戦が実施される。

しかし、セイターはこれを横取りしようと、キャサリンに銃を突きつけ主人公を脅す。ここから実に複雑なカーチェイスが繰り広げられる。順行と逆行が複雑に入り混じっているため、タイムラインを整理しても、非常にわかりにくいのだ。

カーアクションとしては見応えがあり、純粋に楽しめる。バックで疾走する車とのカーチェイスや、激突しそうなキャサリンの救助、さらにバックで走る謎の車も乱入し、転倒状態から起き上がって走り始める。セイターの部下たちと銃撃戦も繰り広げられ、手に汗握る展開だ。

だが、主人公とキャサリンは捕らえられ、セイターの武器保管用の倉庫「フリーポート」へ連れて来られた。「プルトニウム241」の在りかを聞き出そうと、セイターはまたしてもキャサリンに銃を突きつける。

増援部隊の到着で主人公は助けられたものの、セイターはここの「回転ドア」で過去へと逃走、キャサリンは撃たれて死にかけていた。キャサリンを救うために、主人公とニールも彼女を連れて逆行する。

さらに主人公は過去のキャサリンが殺されないよう、逆行状態で外へ出る。先程バックで走っていた車に乗り込み、逆行するセイターを追跡。過去の自分と逆行するセイターとのカーチェイスに参入する。先程のカーチェイスが逆行視点で再現される。だが、結局はセイターに「プルトニウム241」の在りかを悟られ、車は炎上。「プルトニウム241」も奪われてしまう。

【徹底考察(予定)】カーチェイスシーンタイムライン

かなり苦労したが、カーチェイスのシーンは人物ごとのタイムラインや誰がどの車に乗っていたかなどを徹底考察し、だいたい把握できた。長くなりそうなので後日掲載する予定だ。

【ネタバレ】壮大な挟み撃ち作戦

オスロ空港へ向かうコンテナ船内で気が付いた主人公は、ニールから「プルトニウム241」が「アルゴリズム」の一部であり、その機能は世界全体を逆行させることだと教えられる。

順行へ戻るために、1週間前に飛行機が激突した直後のオスロ空港へ到着した主人公とニールは、キャサリンをストレッチャーに乗せ、「フリーポート」内部にあった「回転ドア」を目指す。先に侵入した主人公を待ち受けていたのは、かつての自分自身だった。格闘する逆行主人公と順行主人公。逆行視点でかつての格闘が再現される。ストレッチャーにキャサリンを乗せたニールもこれに続く。

順行に戻りプリヤと会った主人公は、キャサリンの命の保障を求める。セイターはアルゴリズムを9つ全て集め、未来へ送り届けるために、故郷のスタルスク12で地中深くに埋めようとしていた。オペラハウス襲撃の日にここで起きた爆発がこれを埋めるためのものと気付いた主人公は、ニールとともにアイブスの部隊に加わり逆行する。キャサリンも逆行し、一家でバカンスを楽しんだベトナムのヨットに乗船。逆行してきたセイターがここに現れると睨み、キャサリンが時間稼ぎをする計画だった。

部隊はスタルスク12で順行のレッド班、逆行のブルー斑に分かれ、時間の前からと後からの挟撃作戦を実施する。主人公はレッド班の別ユニットとしてアイブスと共に地下トンネルから爆発地点を目指し、爆発前にアルゴリズムを奪還、ニールはブルー班として情報収集と敵の除去を実施する予定だった。戦闘開始で突撃するレッド班と、戦闘を終えて撤退するブルー班が入り混じる。さらにこの廃墟にも敵の「回転ドア」があるため、敵も順行と逆行で応戦する。順行と逆行それぞれの、敵と味方が入り乱れて戦闘を繰り広げる、複雑な戦闘シーンだ。

逆行ならではのビジュアルが面白い。ビルの破片が舞い上がり、壊れたビルが元に戻る。それと同時に同じビルの別の箇所が爆撃される。ここまで来るともはや、敵に攻撃されているのか未来の仲間に攻撃されているのかわからない。

ニールは作戦の途中、主人公を救うために順行に戻る。主人公を追いかけ装甲車で疾走するニール。この装甲車が実は戦闘の最初のシーンにしっかり登場している。このように、事情を知ってから観直すとさらに楽しめる。

作戦終了後、ニールは一人さらなる任務に赴くために逆行する。友情の終わりを告げ主人公と別れるシーンが実に切ない。

回文形式

『TENET』というタイトルは、右から読んでも左から読んでも同じように読める回文になっている。これと同様に物語自体も回文のような構成になっている。

オペラハウスでのテロ事件

オスロ空港

高速道路でのカーチェイス

逆行

高速道路でのカーチェイス

オスロ空港

オペラハウスと同日のスタルスク12作戦

言うなればこれも、物語の前からと後ろからの挟み撃ちだ。だから最初に戻って何度も観直すことになってしまうのだ。

CAST・STAFF

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