『海を失った男』

あらすじ

魔術的な語りで読者を魅了する伝説の作家、シオドア・スタージョン。頭と左腕を残して砂に埋もれた男は何を夢見るか――圧倒的名作の表題作、美しい手と男との異形の愛を描いた名篇「ビアンカの手」、墓を読む術を学んで亡き妻の真実に迫る感動作「墓読み」他、全八篇。スタージョン再評価に先鞭をつけた記念碑的傑作選。

カバーより
収録作品

「音楽」「ビアンカの手」「成熟」「シジジイじゃない」「三の法則」「そして私のおそれはつのる」「墓読み」「海を失った男」

 シオドア・スタージョンは、割と好きな作家。私の場合短篇は評価が低めなのだけれど、この短篇集は思ったよりずいぶんと良かった。特に「成熟」が良い。


 ロビンは内分泌腺に異常を抱えているため、歳を取っても精神的、肉体的に幼児期の状態にとどまっている。しかし何事にも器用で、才能にあふれ、独創的。さまざまな発明品や創作物を生み出しては、他人に只同然のような条件で譲っていた。そんなロビンとその主治医ペグと専門医のメルの交流を描いたのがこの物語。ロビンの性格が一風変わっていて、それがこの作品の大きな魅力となっている。ロビンは手術を受け、成長する。そして「成熟」という意味について考える。三人の人間関係といい、「成熟」についての議論といい、不思議な魅力のある作品。


 また、表題作の「海を失った男」も良い。砂浜で埋もれている病んだ男を描いた物語だが、その砂浜は実は…という内容。独創的な、不思議な描き方をしている。「きみは少年だとしよう」と、冒頭から読者は病んだ男を見つけた少年として描かれる。または読者は、海の怪物と闘った若者だとして描かれる。海の記憶、砂浜の情景が鮮やかで幻想的。さらには読者は病んだ男としても描かれる。読者は平行棒から落ち、または潜水病となり、または…。錯綜するエピソードが美しくてスタージョンらしい。