『スロー・バード』

内容

垂直につづく岸壁世界の住人の暮らしぶりは? 21世紀の銀座のクラブを舞台にした悲しきラブロマンスはいかがでしょう? 夢の中にお菓子のCMが出てきたら、どうしますか? 誕生日に両親から“世界”をプレゼントされた女の子のお話は? 空中から出現しては消える〈バード〉が跳梁する世界で、スケート大会を観戦しませんか? 英国SF界きっての鬼才ワトスンが、あなたを脅威の旅に案内する日本版オリジナル傑作集

カバーより
収録作品

「銀座の恋の物語」「我が魂は金魚鉢の中を泳ぎ」「絶壁に暮らす人々」「大西洋横断大遠泳」「超低速時間移行機」「知識のミルク」「バビロンの記憶」「寒冷の女王」「世界の広さ」「ぽんと開けよう、カロピー!」「アイダホがダイヴしたとく」「二〇八〇年世界SF大会レポート」「ジョーンの世界」「スロー・バード」

 1990年に刊行された短篇集の再版。さすがに今読むと時代を感じさせる部分もあるが、表題にもなった「スロー・バード」など、物語としての要素が秀逸なものが多い。


 作者イアン・ワトスンは、最近では映画『AI』の脚本なども手掛けたので、一般的にはこの紹介の方が通りが良いだろうが、私にとっては『黒き川』三部作の方が印象深い。異世界の、謎に包まれた黒い川を舞台に、そのほとりに住む少女ヤリーンの目を通して、川の正体が明かされて行く。2巻目では主人公が死んでしまうという意表をつかれる展開を迎えながら、この世界の謎にまで迫るという独創的なSFだった。あのような秀逸な長篇をまた読みたいものだ。