『竜と竪琴師』

 『パーンの竜騎士』シリーズの外伝。竪琴師の長として活躍したロビントン師の半生を描いた物語で、彼の誕生から、シリーズ第一巻『竜の戦士』の冒頭あたりまでの出来事が描かれている。優れた作曲師ペティロンを父に、ソプラノの歌唱師メレランを母に生まれたロビントンは、幼いころから天才ぶりを発揮する。彼の創る歌は親しみ易い。また、ロビントンは教師としての資質にも恵まれていて、覚えの悪い生徒の面倒見も良く、異例の早さで昇進して行く。けれども父ペティロンとの折り合いは悪く、大人になっても二人の関係が改善されることがない。


 男性作家の書くこうした父と息子の葛藤は、読んでいて私には不要なテーマだといつも思うのだが、マキャフリーは母メレランの視点を通しながら書いているので、まだしもとっつきやすくはあった。とはいえ、メレランが先回りして工作していたことが、父と息子の関係をかえって悪化させたのではないのかという気がしないでもない。


 この時代、糸胞が降らなくなってから何百年も経っているため、竜騎士や竪琴師ノ工舎に対して懐疑的な人達が増えていた。特にハイリーチェスでは野心的な男が頭角を表しつつあり、批判的な風潮を助長させていた。不穏な情勢が次第に深刻化していき、ロビントンの気苦労は耐えない。クライマックスは『竜の戦士』の冒頭とも重なる部分で、同じ事件がロビントンの目を通して語られている。


 こういった世界情勢とは別に、シリーズでお馴染みの登場人物達の過去の様子が描かれているので楽しめる。ロビントンにしても、これまでのシリーズの厳かな印象からは想像のつかない、華やかな恋愛の様子が描かれている。また、いずれ見受けられる酒好きの様子が次第に現れてきていたり、シリーズを通して読む楽しみがある。これまでの登場人物も若い姿で何人も登場していたり、親が登場していたりと、ファンには興味深いと思う。また、これまでの作品を全然知らずにこの一冊から読んだとしても、それなりに楽しめるものとなっている。もう一度シリーズを通して読み返してみたいが、本がまだ段ボール箱の中だ。