『大いなる復活のとき』(上・下)

 図書館で見かけて、作者の名前と登場人物の名前に覚えがあったけれど、ストーリーを思い出せなかったので借りてみた。発売当時(1999年)にたぶん購入して読んでいるはずで、本も段ボール箱のどこかにあるはず。あらためて読み直してみたが、念動力などさすがに今では古くさいし、コンピュータに関する記述も古くさく感じる。


 〈無名秘力の施界レルム〉と呼ばれる惑星の謎をめぐる物語。クォーター銀河に人類が進出して何万年もが経過した未来。人類はあまりに遠く散らばりすぎた上、それぞれの盛衰や連絡の途絶を繰り返した結果、自分達の進化ポイント(つまり地球)の場所すら分からなくなってしまっていた。孤立していた〈施界〉は10年前に再発見された。二重連星の軌道を巡る〈施界〉は気候が厳しく、住める場所も切り立った崖に挟まれた谷底しかない辺鄙な惑星。けれども、たいした資源もなく産業もないこの〈施界〉をめぐって、人類の二大勢力であるルドラント・ヴィタイ属とヒト科再統一同盟(統一派)が、この惑星を我がものにしようと躍起になって画策する。


 10年前に〈施界〉を脱出し、以来システムハンドラーとして生計を立てていたエリク・ボーンは、依頼主の一人、ヴィタイ属のバスクに、普段の仕事とは異なって、通訳の仕事を依頼された。引き合わされたアーラは、エリクが捨てた故郷の、最下層の階級・不触(ノータッチ)の女性で、統一派に連れられて〈施界〉を脱出したものの、ヴィタイに拉致されたところだった。アーラは彼女の名石を手に入れると逃げ出し、エリクも一緒に脱出する羽目になった。


 エリクには特殊な能力があり、念動力を使うことができた。一方アーラには、彼女の家系に代々伝えられてきた名石があり、それを使うことで秘められた特殊な力を発揮することが出来た。故郷に迫る危機に、アーラとエリクは否応なく巻き込まれていく。


 種族や派閥や一派がたくさんあって、誰がどれに属しているのかが把握しづらいため、ストーリーもなかなか分かりづらい。それぞれの派閥の中にもいろいろと抗争があるし、〈施界〉に潜入している工作員も、どれに属しているのか分かりづらくて混乱する。けれどもそれに馴染めれば、どんどん変化するストーリーに引き込まれる。


 ことにそれぞれの文化や風習、宗教、慣習、伝承などがよくできていて面白い。しかもそれらは謎に包まれた〈施界〉の歴史を解明する手がかりにもなっている。人類だけでなく、8本足のエイリアンのシセル異族の生態や文化なども興味深い。シセル異族は生態環境は異なるものの、ビジネスを通じて人間との関係を良好に保っている。親子ぐるみで登場していて、子供達の様子など、読んでいると次第に可愛らしく思えてくる。他にもAIのドリアスや、彼がつくり出した息子のような存在のアデュドリアスも登場している。


 〈施界〉は厳しいカースト制度が敷かれていて、アーラの属する不触は、その最下層の階級にあたる。けれどもアーラは強い個性を持っていて、卑屈ではない。命じられた仕事は喜々としてこなすけれども、困難に挫けず屈服しないし、くよくよしない。それが読んでいて心地よい。ラスト近くでアーラは、師人ティーチャーであるエリクにお説教さえする。

「あたしに言わせれば、それはわが師人さまが自分がどうあるべきかということを考えすぎて、現実の自分をどう扱ったらいいのか考える時間が足りないからよ」下巻P364より

なかなかうまい指摘だ。こう言いたくなる人はたまにいる。