『「空気」の研究』


著者:山本七平
出版:文芸春秋
ISBN:9784167306038
お気に入り度:★★★★★

 Airのことではなく、「空気読め」という場合の「空気」の研究。これがどう発生してどのように圧力を増し、何によってしぼむのかといったことがここで研究されている。


 山本七平氏の著書は日本人の習性を考える上でとても参考になる。中でもこの著書は明確でわかりやすい。書かれた時代がちょっと古いので、言及されている出来事の当時の「空気」がわからないこともあるのだが、日本人の本質的な行動パターンはおそらくあまり変わっていず、むしろここのところ極端に日本化しているように感じられるので、じゅうぶん参考になる。


 面白かったのは「メートル法」を生み出した考え方の解説だった。メートルという尺度は、人間が絶対に手を触れ得ない地球が基準となっている。人間の恣意も状況も作用し得ないがゆえに、公正で平等な規範でありうる。これは「情況に対応して変化させる」ことはできない。この考え方が聖書に根ざした文化の「絶対」という概念であり、倫理的規範なんだそうだ。それはあまりに非人間的なので、日本人は日常生活でメートルの単位を使うことはできても、このメートルを造り出した精神には耐え得ず、本能的に拒否反応をしめすのだという。


 ライブドアの事件の真相はまだ明らかになっていないから彼らが本当に法を犯したのかどうなのか判断しかねるのだが、ホリエモンに対して多くの人達が強烈な拒否反応*1を示したのは、おそらくこの「メートル法への拒否反応」だったんじゃないかと私は思っている。ホリエモンのマスコミでの発言などからは、「メートル法」の思想が背景にあることが端々に感じられた。彼はおそらく法律を動かないものとして捉えていて、だからこそ悪びれもせず、法の隙間をついた手法を取ってきたのだろう。「空気」に従って伸び縮みするゴムの定規で測る人たちの中に、伸び縮みしない定規で測る人が入ってくれば、拒否反応が起こるのは当然とも言える。そもそも法律自体が、ゴムの定規で測ることを前提として作られているのだ。「空気」を無視したことに対する処罰は日本ではかなり厳しい。しかし注意しなければならないのは、日本の外では定規は伸び縮みしないということだ。日本人もそろそろ世界の「空気」を学ばなければならないのではないだろうか。


 その他にもこの著書の中では、「日本では父と子が相互に事実を隠し合う中に真実があり、それが会社の中などでも適応されている」こととか、「平等を追求しようとするあまり状況や差違を無視して、全員を同じ扱いにしてしまう」ことなど解説してあり、興味深い指摘がたくさんある。

*1:それも寄ってたかって会社まで解体してしまったほどの