『ラヴクラフト全集1』


著者:H・P・ラヴクラフト
訳者:大西尹明
出版:東京創元社
ISBN:9784488523015
お気に入り度:★★★★☆

 クトゥルフ神話Wikipedia)の創始者として名高いラヴクラフトの短編集。他の惑星から地球に来た生き物を描いた幻想怪奇小説というのが、私がおぼろげに聞き知っていたクトゥルフだった。なんとなく、黒っぽい狼っぽい生き物を想像していたのだが、「インスマウスの影」ではその生き物は半魚人っぽいし、「闇に囁くもの」ではカニっぽかった。いくつかバリエーションがあるのだろうか。と思って調べてみたら、ラヴクラフトはシーフードが苦手だったそうだ。だから恐怖の対象が魚介類なんですか!?


 読む前にはもっとおどろおどろしいイメージがあったのだが、実際に読んでみるとあまり恐くない。語り手がさまざまな形容を駆使して恐さをアピールしているのだけれど、具体的な描写はなかなか出て来ない。表現がうまいためそれはそれで引きずられて次を読み進めたくなるのだが、主人公の主観のみで話が続いていくので、語り手の思い込みが激しすぎるだけなんじゃないのとも思えてしまう。


 また、「自分の知らないもの」・「自分の常識の範囲外のもの」=「恐い」・「禍々しい」といった図式が常にあるので、それがイコールだと思えるか思えないかで共感の度合いは違って来るように思える。私にはそれが必ずしもイコールで繋がっていかない。だから恐さを楽しむことが出来ないのだが、独特の世界観は雰囲気があるし、小説としても面白いと思う。言葉の響きとしては「ニャルラトホテプ」が好き。