『ハンターズ・ラン』

あらすじ

辺境の植民星サン・パウロで、探鉱師ラモンは、酒のうえの喧嘩でエウロパ大使を殺してしまった。大陸北部の人跡未踏の山間に逃げこんだものの、ラモンは謎の異種属と遭遇し、つかまってしまう。しかも、異種属のもとから脱走した人間を捕らえる手先になれと命令された。異種属の一体、マネックに "つなぎひも" でつながれ、猟犬の役をはたすことになったラモンの運命は……? 人気作家三人による、スリリングな冒険SF

カバーより

 3人の作家による共作。構想から30年という歳月をかけて完成したそうだ。そんなに長期間かけて書いていたらSFとして時代遅れとなりはしないかと心配になるところだが、読んでみるとそんな印象は受けない。


 そもそもストーリーの大半が未開の地でのサバイバルなので、日進月歩が甚だしい機器類は最初から登場しない。また、人類よりももっと科学技術力の優れた異種族が登場するので、彼らの技術ということにしてしまえばどんな技術だろうがたいした説明無しで登場させることができる。それに、自分自身を客観的に捉える機会を得た主人公の成長を描くという普遍的なテーマが描かれているので、時間が経っても古びない。よく練り込まれたストーリーで、いい作品だと思う。


 主人公ラモン・エスペホは喧嘩っ早く、常に怒りを抱えて虚勢を張っている、そんなトラブルメーカーだ。人付き合いが苦手で、酔っぱらって喧嘩をふっかけてはトラブルを引き起こしている。そんな彼がアイデンティティを揺さぶられ、自分自身が何者なのかわからなくなり、次第に変化していく様子が面白い。


 ある日ラモンは、暗黒の海の底を漂っているような感覚で意識を取り戻す。彼は未知の異種族マネックに捉えられ、シロップのような液体に浸けられていた。


 この時代、すでにいくつもの宇宙航行種族によって宇宙は征服されていた。ラモンがこの辺鄙な惑星サン・パウロにやって来たのも、銀のエニェという大種族の巨大宇宙船団でのことだった。


 謎の異種族マネックは、三日前に逃亡した人間の男の追跡をラモンに命じる。喉に埋め込まれた触手状の“つなぎひも”でマネックの腕に繋がれ、ラモンは仕方なくその男を追い始める。


 追跡の合間にラモンのこれまでの人生が語られる。インディオの血を引くメキシコ人として生まれ育ち、探鉱師としてこの惑星に来たこと。かつて愛した女性のことや、現在付き合っているイカれた女性のこと。街を離れて人跡未踏の地に身を隠さなければならなくなったトラブルのこと。


 マネックは彼に、「どのような状況において、おまえは殺生をするのか?」と問いかける。


 ヒスパニック系の植民星という設定もなかなか良い。奥地に棲息する危険な土着の生き物がチュパカブラと呼ばれているなど、ところどころにスペイン語が混じり、エキゾチックだ。ラモンが吐く悪態も、ペンデホとかピンチェとか、柄が悪そうな感じが良く出ている。


 ジョージ・R・R・マーティンは、私が最初に読んだ『ワイルド・カード』シリーズからして共作だった。ずいぶん前なので記憶があやふやだが、趣味のTRPGに興じて労力をかけてそのシナリオを書いていた彼は、これをまとめれば小説として出版できると気がついた。こうして発表されたのが『ワイルド・カード』シリーズだったように思う。共作に抵抗感がない作家のようだ。『ワイルド・カード』シリーズはもっと荒削りな印象があったが、本作はもっと滑らかに仕上がっていて、数人の作家によって書かれたということは紹介されていないとわからない。


 著者の後書きにはこの作品が書き上げられた経緯が紹介されていて面白かった。この作品の原型はドゾワによって書かれた。当時マーチンはカトリック系の女子大で講師をしていて、ゲスト講師としてドゾワが招かれ、その題材にこの作品の原型が披露された。この作品は修道女たちには不評だったが、これが合作のきっかけとなったようだ。ラモンの連発する冒涜的な悪態は修道女たちに忌み嫌われたそうだが、SF好きからしてみれば、ジョージ・R・R・マーチンから授業を受け、未発表のSF作品を読めるなんて、うらやましい限りである。