『死者の短剣 遺産』

あらすじ

地の民の娘フォーンとうみの民の警邏隊員ダグ。悪鬼との戦いがきっかけで出会い固く結ばれたふたり。フォーンの家族から結婚の了解をとりつけ夫婦となったが、行く手には湖の民とダグの家族というさらなる難関が待ち受けていた。地の民の娘を受けいれようとしないダグの家族に、フォーンも打つ手がない。そんなときに悪鬼が出現、ダグは中隊長として退治に向かう。シリーズ第二弾。

カバーより

 『死者の短剣 惑わし』(感想はこちら)に続く、第二弾。かつての歴史で起きたことが、ここでは伝説となって伝わっている。それによると、昔の貴族たちは魔力を持っていたが、その中の王が手を伸ばしすぎて何かに変質した。最後に滅ぼされた時に散り散りになり、それが現在悪鬼として復活しては災いをもたらしている。〈湖の民〉はその魔力を持っていた地方貴族の子孫ではないかと、ダグは推測している。


 さて、前作では〈地の民〉フォーンと〈湖の民〉ダグは恋に落ち、出自の違いを乗り越え結婚した。新婚ほやほやのフォーンとダグがダグの故郷へと向かうところから本書は始まる。しかし二人の結婚は〈湖の民〉には歓迎されず、ダグの母親と兄は二人の結婚を訴える始末。


 フォーンは前作では〈玻璃の鍛冶〉で〈湖の民〉の警邏隊員達ともあっという間にうちとけていたので、今回もすぐに溶けこめるものと思いきや、なかなかうまく行かず苦戦する。さらに、悪鬼が現れた知らせが入り、ダグは警邏隊を率いて出かけてしまう。見知らぬ地に一人取り残され、ダグの安否に気をもむフォーン。悪鬼が無事に退治されるのかどうかも見所ではあるが、二人の結婚がうまくいくのかどうかも、今回の見所の一つである。


 前作では〈地の民〉の生活様式が紹介されていたが、今回は〈湖の民〉の生活様式が紹介される。〈地の民〉と違って〈湖の民〉は流浪の民なので生活道具がほとんどなく、働き者のフォーンは途方に暮れる。警邏隊の経済的な仕組みや裁判の仕組み、〈湖の民〉の主食となるボトン芋の栽培の話など、詳細に設定されていて面白かった。


 また、基礎と呼ばれる〈湖の民〉の持つ不思議な能力についても、より詳しく説明されていて興味深い。単に不思議な能力を持っているというだけではなく、それがどういったものなのかを詳しく説明しているところが、SF作家たるビジョルドらしい。


 前作ではフォーンが、本作ではダグが、自分たちの故郷から離れるという構成になっている。はたして残りの2巻で二つの民は和解することができるのだろうか。また、第一弾での出来事を原因に一連の災いが次々と発生しているわけだが、これらを完全に断ち切ることはできるのだろうか。


(※勘違いしていた点があったため、修正しました。2012年3月19日)