『タフの方舟』(1・2)

あらすじ

付近の惑星に周期的に災厄を撒き散らす謎の星、〈禍つ星〉。そこに赴けば、誰もが巨万の富と絶対的な力を手にできるという。その秘密を追う学者に雇われた宇宙商人ハヴィランド・タフは、サイバー技術者、用心棒ら、いずれ劣らぬ曲者の五人と現地へ向かう。だが、彼らを待ちうけていたのは、超巨大宇宙船〈方舟〉号からの思いもよらぬ攻撃だった! 表題作ほか、宇宙一あこぎな商人タフの冒険を描く連作集、待望の第一弾

カバーより

あらすじ

あるレストランで、暴漢に襲われた宇宙商人ハヴィランド・タフ。その襲撃者の星では、モーセを名乗る宗教的煽動家が“十戒”を模した環境戦争を仕掛けているという。その共謀者との疑惑を晴らすべく、宗教家と対決するタフを描く「わが名はモーセ」、トリー・ミューンがポートマスターを務める、慢性的な人口問題を抱えた惑星ス=ウスラムに環境エンジニアリングを試みる「タフ再臨」他、全四篇を収録する連作集・完結篇

カバーより

 個性的な商人ハヴィランド・タフが、地球連邦帝国の遺物の巨大な軍用船を手に入れ、環境工学技師として活躍するスペースオペラ。〈方舟〉号と名づけられたこの宇宙船は、連邦帝国環境エンジニアリング兵団の生物戦争用胚種船で、さまざまな種類の生物の胚が蓄えられていて、時間歪曲(クロノワープ)で時間を加速させて培養することで、さまざまな生物や疫病などを作り出すことができた。すでに現存しないと思われていたこの船をどのようにしてタフが手に入れるかというところから、この短篇集は始まっている。書かれた順番とは実は異なっているのだが、時系列がわかりやすく、また連作物もちょうどいいペースで差し挟まれていて、なかなかいい構成になっていると思う。


 収録された作品は1976年から1986年にかけて書かれている。テーマが環境問題で、タフの目指す解決は一貫して生態系のバランスを保つ方向へと向かっているので、今読んでもネタが古いということはないと思う。またその他にも、神の力に匹敵するほどの巨大な力を手に入れた人間がどう行動すべきか、力を手に入れたことで傲慢にはならないかといったことが問われていて、ライトノベルになってもおかしくない設定に、深みを与えている。


 〈鋼鉄のウィドウ〉の登場する三部作が特に面白かった。何といっても彼女のキャラクターには味があり、威勢が良くて一筋縄ではいかないくせに、良心的でもある。また、タフとのコンビぶりも面白い。


 表紙のイラストは末弥さん。そういえば『ワイルド・カード』シリーズ*1の表紙も彼が手掛けてました。2巻のイラストはトリー・ミューンにしては若過ぎですよ?

*1:TRPGを元に、同作者がまとめた小説。日本語版はシリーズ途中で打ち切られてしまった(涙