コロナ禍のいま

異星由来のパンデミックに端を発したSF大作『天冥の標』シリーズを10年かけて読み終え、ようやく感想をアップしたのもつかの間、世界はやっかいなパンデミックの猛威にさらされています。これを読んでいた当時はパンデミックSFと同じような状況をよもや実際に体験するとは思ってもみませんでした。ですが今回の新型コロナウィルスは、感染の広まるスピードの速さ、自覚症状の無さ、欧米などでの死者数の多さなど、これまでに類の無いものでまさにSFそのもの。これをきっかけに、世界は大きく変容するのではないでしょうか。歴史のターニングポイントを体験している実感があります。

このウィルスに感染しないためには、人との距離を開け、密集した集団や密閉された空間を避けなければいけませんが、こうしたことは人間の性質や社会基盤のあり方に反しているため、なかなか大変です。これまでのやり方を大きく変え、新しいやり方に適応しなければ、生き残れないかもしれません。

私の会社でもテレワークとなり、Zoom会議なども取り入れられましたが、ラジオ体操の出席カードのごとくハンコ好きな旧態依然とした会社のため、「緊急事態宣言」の解除とともに元に戻ってしまいました。現在は時差通勤が認められているのみです。

自粛期間中はゆっくり過ごせると思いきや、実際には家事が増えたり、テレワークの環境が整っていなくて時間がかかったりと、意外と忙しかったです。また、新型コロナウィルスに関するニュースのチェックやマスクづくりなどにも時間を取られました。


こうして読んだ記事の中で、気になったものを上げておきます。

コロナ後の世界 - 内田樹の研究室

コロナ禍についてのアンケート - 内田樹の研究室

『日本辺境論』を書かれた内田樹氏がインタビューに応えて書かれていたものです。日本やアメリカなどのパンデミック対応の失敗の本質を述べられています。

ここ数年、政治の劣化ぶりを実感していましたが、今回こうした対応のまずさが周知されたことは良かったことかもしれません。ウィルスは忖度してくれない。


開疎化がもたらす未来 - ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Between Neuroscience and Marketing

こちらは、安宅和人氏による「開疎化」という概念。

開疎化と言っているのは、一言で言えば、Withコロナ社会が続くとすれば、これまで少なくとも数千年に渡って人類が進めてきた「密閉(closed)×密(dense)」な価値創造と逆に、「開放(open)×疎(sparse)」に向かうかなり強いトレンドが生まれるだろうという話だ

今回のコロナ禍では、3密を避けることが感染防止対策として推奨されました。コロナ禍が長引くようなら、開疎を求める傾向は確実に起こるでしょう。建物の設計や換気の仕方は変わるでしょうし、都市への一極集中から、地方の見直しや掘り起こしへと進むかもしれません。


さて、冒頭で紹介したSF『天冥の標』は、シリーズを全部読もうとすると17巻もあり長いですが、パンデミックSFだけなら2巻の『天冥の標2 救世群』のみ読むのがオススメです。2巻は長い物語の始まりの部分にあたり、単独で読んでも完結しています。時代も201X年と現代で、SFに不慣れな方でも読みやすいです。

あらすじ

西暦201X年、謎の疫病発生との報に、国立感染症研究所の児玉圭伍と矢来華奈子は、ミクロネシアの島国パラオへと向かう。そこで二人が目にしたのは、肌が赤く爛れ、目の周りに黒斑をもつリゾート客たちの無残な姿だった。圭伍らの懸命な治療にもかかわらず次々に息絶えていく感染者たち。感染源も不明なまま、事態は世界的なパンデミックへと拡大、人類の運命を大きく変えていく――すべての発端を描くシリーズ第2巻

カバーより

普通の女子高生だった檜沢千茅は、冥王斑という致死率の高い感染症に罹り、医師の児玉圭伍らの奮闘で奇跡的に生き延びます。しかし、千茅の生活は一変しました。この病気は快復しても感染力が衰えず、千茅たち元患者は差別を受け続け、隔離を余儀なくされます。

差別と戦い自分たちの居場所を作ろうとする千茅や、彼女を励まし続ける友達の青葉、一歩間違えば自分も死んでしまう恐怖の中で患者と向き合う圭伍たち医療従事者の奮闘が描かれています。今回のコロナ禍にも通ずるものがあるのではないでしょうか。

シリーズ全体は、これを起点に西暦280X年にまで及び、宇宙海賊との抗争、羊に潜む異星人の身の上話、生体アンドロイド遊廓とその取締り、宇宙農業、異星人の築いた謎の古代遺跡、異星人の技術による身体改造、人類文明を滅ぼすほど激烈な星間戦争、子供たちだけの決死のサバイバル、偽りの植民地の奪還と停戦、銀河諸族をも交えた星間戦争と、盛りだくさんな内容となっています。

第40回日本SF大賞を受賞した傑作です。