『マインド・イーター[完全版]』

あらすじ

宇宙へ出た人類に襲いかかったもの、それがM・Eマインド・イーター。小天体の姿をした存在。精神を食いちぎり人を異質なものに変える。これを破壊せんと連合はハンターを育成し宇宙へ送るが、戦いは絶望的だ。しかもハンターがM・Eのあぎとに倒れると、精神的に強く結ばれた恋人や肉親までもが変貌するのだ。日本SFの里程標的傑作を完全版で贈る。

カバーより

 1982年から1984年にかけて書かれた連作短篇集。収録作品は「野生の夢」「サック・フル・オブ・ドリームス」「夢の浅瀬」「おまえのしるし」「緑の記憶」「憎悪の谷」「リトル・ジニー」「迷宮」の8篇。[完全版]とうたわれているのは、1984年に早川書房から刊行された時には「サック・フル・オブ・ドリームス」と「夢の浅瀬」が収録されていなかったからのようだ。


 M・Eマインド・イーターとは、宇宙を放浪する憎悪のかたまりで、見た目には小惑星や彗星のような鉱物の姿をしている。この鉱物は人間の精神をどん欲に食いちぎる。これに遭遇した人間は人格が崩壊し、精神が次第に肉体から遊離してしまう。M・Eは人類の宇宙進出の障壁となっていたため、これを掃討するためにハンターという職業が生まれた。


 ハンターは人々のあこがれの職業だったが、M・Eに遭遇したハンターのほとんどは、精神を蝕まれて死んでいった。しかも被害はハンターのみにとどまらなかった。M・E症には二次感染症があり、ハンターと精神的に強く結ばれている家族や恋人など、他の人にもその症状が現れた。


 この短篇集では、M・E対ハンターという構図で戦いが描かれているわけではない。M・Eの存在はどちらかといえば脇に置かれ、むしろ、M・E症という病気を通して、二次感染した家族や恋人などとの間に生じる葛藤など、さまざまな感情が描かれている。


 また、生物と鉱物の中間のような存在のM・Eに、生物とは何かということを模索させているのが面白い。それぞれの短篇のテーマは、音楽、言語、植物、遺伝子などと多様だ。こうしたテーマを通して、生物と無生物との違いは何かということを、作者はあれこれと哲学的に試行錯誤していたようだ。


 M・Eという存在そのものの説得力がちょっと弱いようには思うが、全体的にはなかなかいい。ちょっとメランコリーな雰囲気が、当時としてはクールだったのだろう。書かれた時代が似ているからなのか、なんとなく萩尾望都氏のSF漫画と似た雰囲気があるように思う。『左ききのイザン』、『A-A'』他一角獣種シリーズ、『偽王』などを思い起こさせる。