『マインド・イーター[完全版]』
- 著者:水見稜
- 出版:東京創元社
- ISBN:9784488742010
- お気に入り度:★★★★☆
宇宙へ出た人類に襲いかかったもの、それが
1982年から1984年にかけて書かれた連作短篇集。収録作品は「野生の夢」「サック・フル・オブ・ドリームス」「夢の浅瀬」「おまえのしるし」「緑の記憶」「憎悪の谷」「リトル・ジニー」「迷宮」の8篇。[完全版]とうたわれているのは、1984年に早川書房から刊行された時には「サック・フル・オブ・ドリームス」と「夢の浅瀬」が収録されていなかったからのようだ。
ハンターは人々のあこがれの職業だったが、M・Eに遭遇したハンターのほとんどは、精神を蝕まれて死んでいった。しかも被害はハンターのみにとどまらなかった。M・E症には二次感染症があり、ハンターと精神的に強く結ばれている家族や恋人など、他の人にもその症状が現れた。
この短篇集では、M・E対ハンターという構図で戦いが描かれているわけではない。M・Eの存在はどちらかといえば脇に置かれ、むしろ、M・E症という病気を通して、二次感染した家族や恋人などとの間に生じる葛藤など、さまざまな感情が描かれている。
また、生物と鉱物の中間のような存在のM・Eに、生物とは何かということを模索させているのが面白い。それぞれの短篇のテーマは、音楽、言語、植物、遺伝子などと多様だ。こうしたテーマを通して、生物と無生物との違いは何かということを、作者はあれこれと哲学的に試行錯誤していたようだ。
M・Eという存在そのものの説得力がちょっと弱いようには思うが、全体的にはなかなかいい。ちょっとメランコリーな雰囲気が、当時としてはクールだったのだろう。書かれた時代が似ているからなのか、なんとなく萩尾望都氏のSF漫画と似た雰囲気があるように思う。『左ききのイザン』、『A-A'』他一角獣種シリーズ、『偽王』などを思い起こさせる。