『アレクシア女史、欧羅巴で騎士団と遭う』
- 著者:ゲイル・キャリガー
- 訳者:川野靖子
- 出版:早川書房
- ISBN:9784150205409
- お気に入り度:★★★☆☆
英国パラソル綺譚シリーズ第3弾。
前作のラストでマコン卿の誤解を受け、実家に戻ったアレクシア。やっかいな「チビ迷惑」のことは母親にも秘密にしていたのに、新聞に妊娠している事実がすっぱ抜かれてしまった。アケルダマ卿の招待を受けて、アレクシアは避難のために彼の屋敷を訪れたが、屋敷はなぜかもぬけの殻。大勢いたドローンたちもみんな姿を消してしまっているという異様な事態。しかもアレクシアは道中、今週のビックリドッキリメカのようなメカてんとう虫に襲われる。
急きょ予定を変更し、マダム・ルフォーとフルーテを引き連れて、アレクシアはフランス経由でイタリアへと向かう。しかしここにも魔の手が延びる。大活劇を繰り広げ、追っ手をふりきったアレクシアの一行は、イタリアでテンプル騎士団の元に到着。父親のことを知らないアレクシアだったが、かつて父親がこの騎士団にどんな目にあわされていたのか知らされる。
一方、ウールジー城ではマコン卿が荒れ果てて、使い物にならなくなっていた。ライオールのコレクションも被害に遭う。こんなコレクションもどうかと思うが、これで酔っぱらう方もワイルドすぎるだろう。さすがは人狼だ。ガンマのチャニング・チャニングもどこかへ消えてしまったため、ベータのライオール教授はウールジー団をひとりで切り盛りする羽目に。
今回のアレクシアはほとんど逃避行に終始していたので、ちょっと物足りなかった。妊婦なのにこんなに身体を酷使して大丈夫なんだろうか。今回は、最新機器もあまりこれぞという感じではなかった。また、愛用の特製パラソルもあいかわらずあまり役立ってはいない。パラソルを武器として使うには、やはり振り回して殴るのがベストのようだ。
活躍がじゃっかん物足りなくはあるが、アレクシアの存在意義は、ヴィクトリア朝の良家の子女に求められる客体性をとことん打ち破ってあまりある、あの主体性にあるのだろう。母性があるふりなどせず、お腹の子に率直に「チビ迷惑」などと名付けてしまうところにこそ、アレクシアの本領が発揮されているように思う。また、ルフォーもフリルだらけの服を不本意にも着せられて大いに憤慨する。このエピソードもこのシリーズの本質だと思う。
ライオール教授の進言した「公的はらばい」も功を奏し、あんなに深刻に喧嘩していたわりには、アレクシア夫妻はあっという間に予想通りの大団円。そしてたちまちイチャついている。やはり夫婦喧嘩は犬も喰わない。
今回もっとも見所だったのは、アケルダマ卿のドローン、ビフィの数奇な運命だ。第1弾より登場し、常に活躍してきた彼は、おしゃれなイケメンぶりがいかにも吸血鬼然としていた。それなのに、まさかこんな思いもよらない形で吸血鬼になる夢が閉ざされてしまうとは。アケルダマ卿にとっては、なんとも無念な結末だろう。
また、アイヴィが実は意外と目端が利くことが判明。何も気付かず異なる次元で騒いでいるだけかと思いきや、ちゃんとある程度は理解していた。さすがはアレクシアの友人だ。実はああ見えて、アレクシアよりも現実的でしっかりしているのかもしれない。
次回はいよいよ「チビ迷惑」が誕生か。どうせ生まれたら生まれたで、この夫妻は親バカぶりを発揮するに違いない。次作の邦題は『アレクシア女史、女王陛下の暗殺を憂う』。とすると、ついに女王陛下にも魔の手が延びるのか。吸血鬼たちの動向は不穏だし、テンプル騎士団もこのまま引き下がるとも思えない。「チビ迷惑」の身が危険にさらされることになるのだろうか。翻訳はテンポ良く進んでいるようで、次作は4月に刊行予定のようだ。