『星の光、いまは遠く』

あらすじ

あまりに遠大な公転軌道を有するため、あたかも銀河を彷徨っているかに見える辺境惑星ワーローンに、ひとりの男が降り立った。ダーク・トラリアンは、かつての恋人グウェン・デルヴァノから送られた〈囁きの宝石〉に呼ばれ、この惑星にやって来たのだった。再会を喜ぶダークだったが、グウェンは思いもよらない事実を彼に告げる。自分はもはや自分だけのものではないのだと……。エキゾチックな異星で展開される冒険SF

カバーより

あらすじ

ハイ・カヴァラーンの四大連壕のひとつ、ブレイスから追われる身となったダーク・トラリアンは、グウェンとともに、AI制御の巨大都市チャレンジに身を潜めていた。だが、追跡術に長けたブレイスのマンハンターは容易に足取りをたどり、ふたりに迫っていた。果たして、ダークとグウェンはこの危険極まるデス・ゲームを生き抜くことができるのか……。米SF界の巨匠がロマンチシズム溢れる筆致で描いた、伝説の第一長篇

カバーより

 作者渾身の処女長篇。滅びかけた惑星ワーローンで、滅びかけた伝統をかたくなに守る男たちが、名誉をかけて闘う物語だ。


 恒星を持たず銀河の辺境をさまよっている惑星ワ―ローン。その軌道が〈炎の車輪〉*1に接近していた間は人々が住めるよう改造され、辺境星域フリンジに属する14の外縁惑星アウトワールド主催でフェスティバルが開催された。それぞれのアウトワールドは14の祝祭都市を築き、はるか離れた内側の世界からも多くの人々が見物に訪れてにぎわった。けれどもフェスティバルが終了して10年。ワーローンは〈炎の車輪〉から遠ざかり、暗黒に飲み込まれようとしている。光は昼間でもよわくなり、生命はもうすぐすべて死に絶えようとしている。

 
 そんなさびしい惑星に、かつての恋人グウェンから助けを求められ、のこのことやってきた主人公ダーク。あちこちふらふらしていた軟弱男だ。あわよくばグウェンと関係の修復をと期待したダークだったが、ハイ・カヴァラーンの歴史家ジャアンが夫だとグウェンから告げられる。


 ハイ・カヴァラーンはワ―ローンを改造したアウトワールドのひとつで、野蛮で複雑な伝統をもつ惑星。アイン=ケシとかベセインとかテインとかコラリエルとか、当初わからない言葉がいくつも羅列される。これらはハイ・カヴァラーンの複雑な家族構成を説明する言葉だ。彼らの伝統的な考え方や風習、家族構成などが、伝説となった歴史とともにすこしずつ説明され、わかってくると面白くなってくる。


 ハイ・カヴァラーンは長年とざされた惑星だったが、今では他の惑星とも交流がはじまった。けれども彼らの伝統や風習の中には国際的には通用しないものもあり、それらを捨てて新しい生き方をしなければならない。しかし一部の人びとは新しい時代に適応できずにいた。そこで彼らは無法地帯となっているこのワーローンに住み、ハイ・カヴァラーンの伝統的な生き方をつづけようとしていた。


 後半は、何人もが入りまじって、命がけのサバイバルゲームとなる。そして最後には軟弱な主人公が男としての矜持に目覚めるという、成長物語だ。


 また、紅一点のグウェンの側から見ると、奴隷同然で生む道具として扱われる立場から抜け出し、男性と対等な地位を獲得するために戦う、ウーマンリブな物語。1970年代に書かれただけあって、グウェンは女性らしさを捨てて男性化することで自分の地位を獲得しようとこころみる。


 当時のフェミニズムはたしかにこういう発想が主流だったのだろうと思う。けれども現在の視線で見れば、女性が男性になろうとするのではなく、男性とは違う女性ならではの論理ややり方で女性としての尊厳を獲得しなければ、意味がないんじゃないかと思う。


 だが、この作品の良いところは、これらの不毛な破壊行為を滅びかけた惑星上で行っているところだ。つまり、作者はこうした英雄幻想がどんなに馬鹿げたことかをよくわかった上で書きあげている。


 登場人物たちは、滅びゆく惑星で滅びかけた伝統に妄執する。本来なら脱出することを目指すべき時なのに、もう脱出することなど眼中に無く、名誉をかけてあらゆるものを破壊する。なんと生産性のないことか。そしてその行為は男性社会を象徴し、男性社会への風刺ととれる。


 にもかかわらず、読んでいると次第にこの独特の世界にこだわりを持つ人びとの気持ちも理解できる気がしてくる。滅びゆこうとしている世界への郷愁も感じられるし、男の矜持を取り戻した主人公に、成長したことを誉めてやりたくもなる。結果なんかはもう関係ない。グウェンを取り戻せるかどうかも関係ない。ただあるのは、自分自身との戦いだけだ。


 訳者の後書きには「入魂の力作」と書かれている。まさにそのとおりで、持てる力をすべて発揮して書かれた力作だと思う。ハイ・カヴァラーンの風習や歴史の設定もよく練り込んであるし、アウトワールドの世界や祝祭都市の描写も特色があってなかなか面白かった。

*1:赤色超巨石のまわりを六つの中型黄色恒星が回っている