『擬態』

 人間社会に密かに紛れ込んで生きるエイリアンと、人間との交流を描いたSF。これより以前に邦訳されていた、『終りなき戦い』(感想はこちら)や『終わりなき平和』(感想はこちら)などと比べると、SF色は薄れているように思う。むしろ海洋冒険アクションもののようなライトな感じで、SFに馴染みのない人でもとっつきやすい。


 地球外から飛来したその知的生命体は、不死でとてつもなく頑丈な上、姿形を自在に変えることができた。地球に到着してから3万年あまり、それは身体の一部を分裂させて海洋生物に擬態させ、残りの部分は深海に隠れていた。海洋生物に擬態していた部分は、1931年に、人間に擬態した。当初何も分からなかった〈変わり子〉だったが、言葉や慣習を覚え、何人もの人物になりすますことを繰り返して、人間社会に溶け込んでいく。


 一方、深海に隠れていた部分は2019年に見つけられて引き上げられた。質量の割に異様に重いことで注目され、サモアに研究施設が作られて、研究が始まった。3万年の間に自分が何かの一部だったことも忘れていた〈変わり子〉だったが、それが自分に関連があることを直感し、その研究に携わろうと画策する。


 冒頭の、この生命体がどういう過程で発生したかというくだりが面白い。確かに地球のように銀河の端っこにあれば、隣の恒星に惑星が引っ張られるようなことはないだろうが、恒星の密集した銀河の中心近くにあれば、そういうこともあり得るかもしれない。環境は激変し、住んでいる生き物にとってはずいぶん過酷だろう。果たしてそんな銀河の中心近辺で生命が発生し、それが知的生命体へと進化することはあり得るのだろうか。