『アバター』

 ジェームズ・キャメロン監督の最新作、『アバター』(http://movies.foxjapan.com/avatar/)を観てきました。当初思っていたより、ずいぶんと面白かったです。映像の美しさには最初から期待していましたが、エンターテイメントとしても非常によくできていて、ストーリーは単純ながらも楽しめました。


 密林に覆われた美しい惑星パンドラ。この惑星には狩猟民族であるナヴィが平和に暮らしています。ここに現れたのが、ナヴィの住む土地で採れる貴重な鉱石を狙う、欲の深い人間達。かつてのどこかの歴史そのままに、先住民の文化を蹂躙し、彼らが大切にしている美しい自然を無骨な兵器で破壊していきます。


 パンドラの大気は人間には呼吸できません。ナヴィの文化を研究し、コミュニケーションをとるために、科学者はナヴィと人間のDNAを結合させた肉体を培養し、これに精神をリンクさせ、アバターとして動かします。主人公ジェイクは下半身不随の元海兵隊員で、事故で死んだ双子の兄に代わってアバターとリンクし、ナヴィの社会に受け入れられていきます。


 このナヴィ達の狩猟の様子や自然が大変美しい。ナヴィの身体は強靭でしなやかです。人間より大きく、尻尾も生えています。おそらくモーションキャプチャーで作られたCGなんでしょうが、狩りの動作は滑らかで、猛々しくてかっこいい。また、彼らは馬っぽいものや翼竜っぽいものにまたがって、立体的に疾駆します。これがスピード感にあふれ、鳥の視点から眺める風景は美しく、新鮮です。パンドラの景観は見事で、複数の月が浮かぶ空には、岩棚が浮き島のように点在しています。一人前となったハンターは、この浮き島に棲む翼竜のうちの1頭と特別な繋がりを築き、パートナーとなります。このあたりは少し『パーンの竜騎士』に似ています。


 主人公ジェイクとナヴィの女性ネイティリとの恋愛も、異種族間恋愛ながらもなかなか説得力がありました。あんな風に見事なハンターとしての証を引き連れて戻ってこられては、女心としては喧嘩していても惚れ直さずにはいられないでしょう。ネイティリが、アバターではなく人間のジェイクと触れあったシーンでは、種族を超え、身体の大きさや半身不随といったこともすべて超え、相手の人間性(?)そのものを愛する様子がうかがえました。ストーリーとしては最初からの予想どおりで意表を突く内容はないのですが、それだけにエンターテイメントとしての見せ方の巧さを感じました。


 SFとしては、一つの惑星の世界観をこれだけ作りこんだということがまず素晴らしいと思います。映像にはイメージを定着させる力があるので、文字でどんなに説明しても伝えられないことでも瞬時に伝えることができます。SFの本質は新しい世界観や枠組みにわくわくすることにあるので、映像によって説得力のある新しい世界を作り上げたことだけでも成功と言えるでしょう。


 一方で、SFを映画の題材として取り上げようとすると、設定や科学的な説明を充分伝えきれないのが難点です。パンドラに棲息する生命体はどれも、地球の生命体と極端にはかけ離れていないのでわかりやすいです。ナヴィも人間にかなり近く、感情面でもまったく同じです。生殖や結婚の風習についてもあまりかけ離れてはいないようです。本で読むならもっと人間とは異なるエイリアンでないと説得力を感じないのでしょうが、大衆娯楽作品としての映画であれば、この程度が無難でしょうね。


 生い茂る木々がネットワークを作り上げているというアイデアも面白いと思いましたが、こういった点も文章でじっくり説明しないと伝わりにくい部分です。アバターの仕組みについてもたいして説明はありませんでした。実現の可能性は低く無理があるようには思いますが、下半身不随という設定が効果的に使われていて、動かない脚が再び動くようになった喜びがうまく表現されていました。ただ、エイリアンとの間にこんな技術が可能なんだったら、普通に人間用のアバターを作って障害を持つ人達のために役立たせた方が良いように思います。戦争だって生身で闘うより、アバター同士で闘った方が損失は少ないんじゃないでしょうか。


 この映画は3Dで、立体感も楽しめるのですが、さすがにディズニーランドなどで3Dをいくつも見ているので、それほど物珍しさはないですね。きれいな映像が立体感を伴って臨場感は増していましたが、控えめに使われていたので鑑賞の邪魔にはならなかったです。ただ、3Dメガネはちょっと暗くなるし、字幕が少し見づらかったです。