『アイアン・サンライズ』

あらすじ

ウェンズデイ、16歳。オールド・ニューファンドランド・フォーの住人。彼女は暗い廊下を必死で逃げていた、執拗に追う怖るべき魔犬をふりきり、避難船にたどり着くために。あんな死体や謎の書類なんて見つけなければよかったのに。時間はもうほとんどない。約4年前、鉄爆弾が太陽を超新星化させ、モスコウで暮らす2億人を焼きつくした。その恐怖の衝撃波面――鉄の夜明け(アイアン・サンライズ)がまさに今ここに到達しようとしていたのだ!

カバーより

 『シンギュラリティ・スカイ』(id:Atori:20061117)の続編。まさか続編があるとは思っていなかったので、途中まで読み進めて登場人物がかぶった時点でそれに気が付き、驚いた。前作と同じ世界で同じ人物が登場しているけれど、物語自体は別物として独立しているので、前作を読んでいなくても楽しめる。ただしこの巻で終わらず、次作へと続いている。


 良くも悪くも、前作にくらべると読みやすい。これは突拍子もないネタ(空から携帯電話が降って来たりとか)がなくなって事情が分かりやすくなったせいだが、そのぶんスケールダウンして、驚きや新鮮さが減った感じがする。


 今回の主人公はゴス系の少女ウェンズデイ。鉄爆発で失われたモスコウの統治領に住んでいたが、避難する宇宙船に乗り込む直前に、死体と書類を見つけてしまった。それが原因で何ものかに命を狙われるはめに。見えない友達ハーマンに助けられ、金持ちの令嬢に扮して宇宙船ロマノフ号に乗り込むが、次第に追い詰められていく。


 いっぽう、前作にも登場していたレイチェルは、連続大使暗殺事件を解決するために召集された。前作で出会って結婚したマーティンと共に、犯人を追ってロマノフ号へ。マーティンに接触して来たウェンズデイを護って活躍する。前作にも登場したコルヌコピアの使える素敵なトランクも健在だ。


 エシャトンは依然として謎のままで、ハーマンの正体もよくわからないが、エシャトンの禁じたタイムトラベルが絡んでいるようだ。鉄爆弾なるものがどうやって起きたのかもまだわからない。一方、悪役には今回もナチっぽい人達が登場している。前作でも思ったけれど、こんなにステレオタイプな悪の集団というのは、他の作家ではあまり見かけないような気がする。


 SFネタでは、鉄爆弾の描写が面白かった。聞きなじみのない語感に、膨大な時間スケールを淡々と語ってみせる大風呂敷の広げ方。SFはこうでなくては。