『ハリー・ポッターと謎のプリンス』

 ハリー・ポッターシリーズ第6弾。おそらくこの巻でハリーの子供時代は終わりとなるのだろう。ホグワーツで学生として過ごす最後の年でもある。ハリーはクィデッチのキャプテン、ハーマイオニーとロンは寮の監督生となり、責任が重くなる。授業もN・E・W・T(いもり)レベルになって、これまで以上に難しくハードに。それに加えて、ハリーはダンブルドア校長から個人授業を受けることになった。


 そんな忙しい合間を縫って、ハリーは新しい恋に落ち幸せに浸る。けれどもそれもつかの間で、平穏な日常を脅かす戦いの予兆が、ひたひたと重苦しく迫って来る。これまでハリーの敵役として描かれていた人達も、真の脅威を前にすると、取るに足りないたわいないもののように思えて来る。ラストには通過儀礼とも言える辛い試練が待ち構えていて、ハリーは子供時代と決別する腹をくくる。読んでいて、前巻以上にたいへん辛い巻だった。


 タイトルにある謎のプリンスとは、ハリーの手にした昔の教科書による。魔法薬学の授業をとったハリーは、新しい教科書の購入が間に合わず、かつての生徒の残した古い教科書を借りた。そこには授業の助けとなる書き込みが記されていた。その教科書の持ち主が残していたサインが「半純血のプリンス」だった。このプリンスが誰でどう関わって来るのかが、今回の読みどころでもある。はたしてこのプリンスは、良心的なのか邪悪なのか。


 ヴォルデモートの生い立ちや人生も、ダンブルドア校長の授業を通して次第にわかって来た。校長はヴォルデモートに関する記憶を収集していた。以前にも登場した記憶を見ることのできる憂いの篩を使って、ハリーは収集された記憶を校長と共にたどっていく。ヴォルデモートのとった護身のための措置も次第にわかってきた。ハリーはヴォルデモートと積極的に戦う決意を固める。


 今回起きた出来事はたいへん辛いものだった。今後の展開でこの結末は覆るのだろうか。覆るんではないかと期待しながらも、今の所は今後の戦いに向けて暗いムードが漂っていて、明るい兆しは見えない。


 唯一ほっとできるのが、ウィーズリー家の慶事だ。こちらの恋人達は試練を乗り越えて愛を貫く。これはまったくのサイドストーリーながらも、スパイスとして効いている。彼らの試練はファンタジーであるけれども、現実世界の難病とか交通事故などに置き換えて考えることができる。このシリーズが良く出来ていると思うのは、こういう端々にも人生の教訓が多々織り込まれている点だ。