『ハリー・ポッターと死の秘宝』

あらすじ

17歳の誕生日に、母親の血の護りが消える。「不死鳥の騎士団」に護衛されてプリベット通りを飛び立ったハリーに、どこまでもついていくロンとハーマイオニー。一方、ダンブルドアには思いがけない過去が。求めるべきは「分霊箱」か「死の秘宝」か? ダンブルドアの真意はどこに?最後の分霊箱を求めて、ハリーたちはホグワーツへ。ついに明かされる驚くべきハリーの運命とは? 最後の壮絶な戦いが始まる。シリーズついに完結。

カバーより

 発売されてからも読み終わってからもすっかり間があいているので今更だが、ハリー・ポッターシリーズの最終巻。このシリーズは初巻から読み続けて来たので思い入れが強い。振り返ってみると日本語版が発売されたのが1999年。発売日に店頭に並んでいるのを見て面白そうだと思い、すぐに購入した。まだこのシリーズのことが日本で話題になる前だった。そして実に9年をかけての完結である。このシリーズでは、1巻でハリー達の1年が紹介されて来た。それがほぼ1年で1巻のペースで発売されてきたので、まるでハリー達の成長をリアルタイムで見守って来たかのような感慨がある。


 最終巻となったこの巻は、結末にふさわしい優れた出来映えだった。何よりも、これまで張り巡らされて来た伏線が見事にパタパタと収まっていくのが心地よい。作者のこの構成力は並々ならぬものだと思う。何巻も前に張られていた伏線、つまり、作者が何年も前に考えた伏線がここで収束し、ひとつの印象的な愛の物語が姿を現す。このシリーズのサイドストーリーとして、見えたりかくれたりしながらシリーズ全体に織り込まれていたものだ。ハリーはこの物語を知ることで、わだかまる疑念を完全に払拭する。この人物のこんな生き方は不器用で報われがたいとは思うけれど、その一途さには胸を打たれる。


 魔法を扱ってはいても、このシリーズでは物事は魔法で安易に解決したりしない。それはこのシリーズの良いところだと私は思っている。実際の人生でも、物事は都合よく解決したりしないものだからだ。ついに迎えたハリーとヴォルデモートとの対決も、どちらの魔法の力が強いのかなどという安易な闘いとはならなかった。子供だったハリーが7年という歳月をかけて成長し、そこから学んだり培ってきたりしたものが実は自分の強力な武器だったことを認識する。そんな闘いだった。


 とはいえ、誰もが恐れるヴォルデモートとの対決だけあって、今回の闘いは実に過酷だ。これまでも読者は、ハリー側の陣営が傷つくたびに心を痛めたものだったが、今回はその中でも身近な人物が犠牲になっているだけに、たいへん辛い。児童書でここまでするのかと少し驚いた。しかも安易にそれが覆ったりすることはない。このことについてはこのシリーズは実にシビアだ。


 もうすぐ、映画『ハリー・ポッターと謎のプリンス』が公開される。映画版はビジュアルもきれいで、原作の雰囲気がよく表現されていると思う。けれども映画だとストーリーがかなりはしょられているし、アクションや特撮に気を取られて大切なメッセージを見逃しがちだ。やはり出来ればじっくり本を読んでもらいたいと思う。