『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』

あらすじ

 復活したヴォルデモートとの戦いはいつ始まるのか?ハリーにはなんの知らせも来ない。そして突然ハリーは吸魂鬼に襲われる。「不死鳥の騎士団」に助け出されたハリーは、「騎士団」が何か重大な秘密を守っていることを知る。
 新学期が始まり、恐ろしい新任教授アンブリッジと黒い扉の夢に悩まされ続けるハリーに、チョウ・チャンが微笑みかける…。

上巻カバー折り返しより

大切なO.W.L.(普通魔法レベル)試験を控えた五年生は、日夜勉強に追われる。疲れきったハリーは、恐ろしい夢を見る。謎の夢は、ハリーの出生の秘密に繋がっていた。ハグリッドの秘密、スネイプの秘密、そしてダンブルドアの秘密…。過去から未来へそれぞれの運命の糸が紡がれる。そしてついに戦いが始まった。立ち上がるハリーと「不死鳥の騎士団」。しかし、悲しい死が…。

下巻カバー折り返しより

 ハリー・ポッターシリーズ第五巻。ハリーがホグワーツ校に通い始めて5年目の年で、ハリーも15歳である。今回は、小さな男の子だったハリーが子供の時代を抜け、大人へと足を踏み入れ変化して行く様子が描かれている。


 思春期を迎えたハリーは不安定で、ナーバスになりやすい。彼には「閉心術」を学ぶよう求められる。外部からの魔法による進入や影響に対して心を封じる魔法である。前回の守護霊を呼ぶ魔法もそうだけれど、これらの呪文は魔法という設定ではあるものの、現実の世の中でも身につける必要があるものである。閉心術のほかにも、ハリーには忍耐力を身につけ、反抗心を抑えること、教師を敬うことなど、思春期の年代の子供たちに求められそうなことが、繰り返し要求される。


 けれども試験勉強に追われ、噂の的にされ、理不尽な罰則や規制をくらうハリーには、なかなかうまくその呪文を修得することが出来ない。身近な友人や自分を愛してくれる大人たちにもいらつきがちで、自分が見捨てられたような、除け者にされているような気分を拭うことが出来ずに八つ当たりする。結果的には大きな犠牲を支払うことになり、悲しみを乗り越えて、ハリーはようやく大人へと成長する。見たくないことを見、受け入れがたいことを受け入れ、人は大人へと成長する。 それは時に苦く切なくつらいことでもある。しかしそれでも、目をそらさずに受け止め、その痛みにひとり耐えることが、成長するということでもあるのだろう。


 思春期まっただ中のハリーや、ちょっとしたことで自信を喪失して実力を発揮できないロンなど男の子たちと比べ、女の子たちは成長が早いのかもう少し大人っぽい。ハーマイオニーは周囲の人々を冷静に観察し、思いやりを見せることができる。また、相手に対する感情と、言動への評価とを切り離して考えることができ、好きな人だから常に正しいとか、嫌いな人だから間違っているといった判断の仕方はしない。その点ハリーはまだそれが出来ず、未熟である。


 ロンの妹ジニーはハリーたちより年下だが、自分のことで精一杯なハリーに「幸せな人ね」と言ってのけたりするほどだ。ハリーと口も利けなかった以前の恥ずかしがり屋の彼女とは打って変わり、双子の兄じこみの大胆さを発揮している。またその友達の変わり者のルーナも、うわさの種にされてナーバスになるハリーと違って、いじめにあってもびくともせずにやり過ごす強さを見せる。典型的な女の子としての恋愛反応を見せるチョウなどは、ハリーはどう扱っていいやらわからずに手に余る。子供たちの成長具合はそれぞれ異なり、思春期を通り過ぎて大人になる様子が今回の見所のひとつでもある。


 前回ヴォルデモートは復活したが、それを伝えたダンブルドアに一方的に敵意を向ける魔法省は、そのことを信じない。魔法省からアンブリッジがホグワーツ校に送り込まれ、学校は監視下に置かれてしまう。手紙は検閲され、アンブリッジの気に入らない教師は解任され、集会すらも禁じられる。さらに彼女に都合の良いよう規則までも変更される。ホグワーツが安息の場所だったハリーだが、ハリーもまた目をつけられ、ひどい扱いを受け、気が休まらない。またハリーにはハグリッドのことも心配でたまらない。


 ダンブルドアは対ヴォルデモート活動のために不死鳥の騎士団を結成した。その活動はまだまだ謎に包まれている。しかし、その他のいろいろなことが今回ずいぶん明らかになってきた。15年前にヴォルデモートが滅びかけたいきさつ、ハリーがなぜダズリー家に預けられているのか、スネイプがなぜハリーをいびるのか、ネビル・ロングボトムとハリーにはどんな因縁があるのか。次第に謎が解けて行く伏線の張り方は見事だ。今後ペチュニアおばさんの役割なども何かありそうだし、ネビルもラストあたりで大きく活躍しそうである。だんだん見えてきたところでは、このシリーズは、異質を排除するのか、それとも受け入れるのかの対立を描いた物語である。


 ラストで、ひとつの節目を越えたハリーが悲しみにひたる。罪悪感やうらみを忘れて、ただただ、愛する人が居ないことを純粋に悲しんでいる。そこには強い愛情が感じられる。また、自分を愛してくれる人々への、言葉にできない暖かい気持ちも最後に描かれている。これらのエピソードが、ややヒステリックな感じのするこの巻に余韻を残しているように思う。