『ダ・ヴィンチ・コード』

 読んでみて、かなりがっくり。キリスト教的にはセンセーショナルなのかもしれないが、小説的には薄っぺらすぎる。まるでワイドショーのように、刺激的ならなんでもOKって感じ。どうしてこの内容で、あれだけ世界的なブームとなり得たのか、わからない。むしろ下手にストーリー仕立てにせずに、マグダラのマリアのドキュメンタリーにした方が、はるかに面白かっただろうと思う。


 何といっても登場人物達の行動がことごとく不自然で、突っ込みどころ満載である。例えば殺されたソニエールにしても、死に瀕してあまりにいろいろとやり過ぎていてくどい。ダイイングメッセージはともかくとしても、いくらダ・ヴィンチの作品を模するためでも、全裸にまで普通なるだろうか。しかもご丁寧に服まできちんと畳んで置いている。死にかけて1秒を争っている人のとる行動とは思えない。それにダ・ヴィンチのあの有名な絵画なら、パンツくらい履いていても分かると思うのだけれど。特に相手は象徴学者なんだし。


 捜査にしても、容疑者にしょっぱなから死体の写真を見せたり、署に連行せず殺害現場に連れてったり、あげくに逃げられる割には手回し良く発信器をあらかじめ取り付けてあったりと、不自然きわまりない。最初のあたりをちょっと挙げてみてもこんな具合で、これが延々続くので、むしろ笑える。伏線の張り方とかネタの明かし方なども、安易ですぐに分かってしまう。もう少し書き方を工夫していれば、書き方次第で同じ内容でもはるかにましになっただろうにとも思う。


 おそらく短期間の出来事をそのまま書いているから無理があるのだろう。それ以外の出来事は、全部回想シーンで済ませてしまうから、説明のための説明になってしまって、どうしても薄っぺらい印象を与える。


 謎解きの部分にしても、暗号解読というよりはむしろ謎々に近い。せっかく暗号解読官なるヒロインまで登場させたのだから、もっと本格的な暗号でも良かったのではないか。また解く過程にしても、もう少し工夫があっても良かったように思う。謎があって、誰かが解読して、披露して終わり。そうではなくて、もう少し途中で段階を追って、解く過程を読者も一緒になって楽しめるような余地があれば良かったのに。


 そして一番駄目なところは、ネタ的には女性讃歌なのに、それが小説の全体を流れるバックボーンとして全然感じられないところだ。言ってることとやってることの整合性がないように感じられて仕方がない。