『宇宙戦争』

 映画『宇宙戦争』を観てきました。これはH・G・ウェルズの古典的な名作を映画化したものですね。原作は読んだかどうか実はぜんぜん覚えていないです。が、子供向けのSF全集などに収録されているので、たぶん小学生か中学生の頃に読んでいるはずだと思われます。


 『宇宙戦争』といっても、別に宇宙船に乗って宇宙空間でドンパチやるわけではなくて、むしろ日常の平穏が崩れていく恐怖や、理性を失った人間の恐さといったものが、身近なレベルで描かれています。アクションの派手さに転ぶでなく、アメリカ人の好きそうな愛国心を強調するでもないところが好感が持てました。トム・クルーズも国を背負って戦うヒーローという位置付けではなく、多くの人が身近に感じるであろう、離婚して、子供との間の溝を埋めようと四苦八苦しているブルーカラーにすぎません。けれども異常な事態に直面し、父親として子供を守ろうとする必死さが良く伝わって来ました。子役のダコタ・ファニングもうまかったですね。


 それからカメラワークや構図などの印象的なシーンがたくさんありました。最初のトム・クルーズのコンテナを操作しているシーンもカメラの回り込みが面白かったし、巨大メカが山にそびえて静かに動き回っているシーンも妙に美しかったです。あと、日常から非日常へのビジュアルでの変化の付け方がうまい。モデルルームのようにきれいなお母さんの家が、攻撃を受けた後に無惨に壊されていて、外に出ると静かに破壊の爪痕だけが残されている。この落差。また、小屋にしばらく立てこもっていた後に、外に出たシーン。地球の景色とは異なる異様な世界が広がっていて、印象的でした。それを強調するかのような、巨大メカ視点のダコタ・ファニング。でかい目を見開いている彼女を、魚眼レンズで見下ろす構図となっています。こういう見せ方は秀逸だと思います。


 しかし、女の子は「見ちゃいけない、聞いちゃいけない」なんですねぇ。何も知らなければ娘は幸せになれるものだと、お父さんは思いたいのでしょうか。自分で解決する手法を身につけた方がずっと役に立つと私は思いますが。目も耳も塞いでいても、娘はお父さんが閉めたドアの向こうで何をしたのか、分かっているはずです。例えお父さんのために知らないふりをしてあげようとも。女の子が知っているということに耐えられないのは男性の方なんでしょうね。


 作中で、大阪ではこの巨大メカを倒したそうだというくだりがありました。確かに日本人はこういうのと戦うための優秀な人材がそろっていそうです(笑)。『宇宙戦争』大阪バージョンを観てみたくなりました。阪神ファンのおっちゃんとかが、関西弁で特攻かけたりしてそうです。枯れた異世界の草が食い倒れ人形に絡まってたりとか。ぜひ作ってもらいたい。。。


 終わった後で隣に座っていたおねーさんが、「典型的なパターンだった」と感想を述べていました。そのパターンのオリジナルがこの作品ですから(笑)。