『断絶への航海』

あらすじ

第三次世界大戦の傷もようやく癒えた2040年、アルファ・ケンタウリから通信が届いた。大戦直前に出発した移民船〈クヮン・イン〉が殖民に適した惑星を発見、豊富な資源を利用して理想郷建設に着手したというのだ。この朗報をうけ〈メイフラワー二世〉が建造され、惑星ケイロンめざして旅立った。だが彼らを待っていたのは、地球とあまりにも異質な社会だった……現代ハードSFの旗手がはなつ壮大なスペース・ドラマ!

カバーより

 1984年に出版された作品の復刊。さすがに今読んでみると当時の世界情勢の影響が色濃い気がして、ずいぶん古くさく感じる。書かれた時代から世界情勢などもすでに大きく変化しているため、すでに崩壊した時代の崩壊が描かれているといったような、今さら感がある。


 自動探査船〈クヮン・イン〉は、居住可能な惑星ケイロンを発見して到着した。そのコンピュータには遺伝子情報が登録されていて*1、新しい惑星で子供達が生み出されるようプログラムされていた。その40年後、地球からの移民を乗せた〈メイフラワー二世〉がケイロンに到着しようとしていた。〈メイフラワー二世〉では軍の支配力が強く、ケイロンも簡単に支配下に置けると考えていた。しかし、今まで体験したこともない異質なケイロンの社会体制を前にして、次第に切り崩され、崩壊していく。ケイロンの人々は歴史やこれまでの価値観から切り離された状態で機械に育てられたため、独自の社会構造を作り上げていたのだ。古い社会体制が新しい社会体制の前で変化していく様子が、軍の落ちこぼれ部隊D中隊の活躍と共に描かれている。


 登場人物が多くて色々な人の視点から物事が描かれているので、誰がどんな人だったか把握しづらかった。私はどちらかというと主人公ひとりの視点から物語が進行する方が好きなので、こういった大勢を少しずつ描いくことで物語が形作られる形式のものはちょっと苦手だ。


 ケイロンのような社会の実現は難しいと思うが、コミュニティのあり方などは、多摩ニュータウン地域通貨COMOのシステムなどと近いようにも思える。ただしこれも少人数の地域でなら可能かもしれないけれども、人数が多すぎると難しいのではないかとも思う。


 魅力的だったのは、ケイロンの社会が徹底的に実質を重視する点だ。彼らは技術や知識を実際に持っている人に対して敬意を払い、名目だけの責任者などには見向きもしない。そして技術や知識を多く持ち、社会にたくさん貢献できるほど、豊かだと考えそれを富とみなす。しかし現実には、これほど全員が実質のみ見据えて論理的に行動できる状況は、おそらくあり得ないだろう。なかなか暮らしやすそうな社会に思えるのに残念だ。

*1:この設定もちょっと古くさい