『万物理論』

あらすじ

万物理論”とは、すべての自然法則を包み込む単一の理論である。2055年、この夢の理論が完成されようとしていた。ただしその学説は3種類ある――3人の物理学者が、それぞれ異なる“万物理論”を、南太平洋の人工島で開かれる国際理論物理学会で発表するのだ。もちろん正しい理論はそのうちひとつだけ。科学系のジャーナリスト、アンドルーは、三人のうち最も若い20代の女性ノーベル賞物理学者を中心に据えて、この理論の番組を製作することになったのだが……。学会周辺にはカルト集団が出没し、さらに学会周辺にはカルト集団が出没し、さらに世界には謎の疫病が蔓延しつつあった。当代随一の鬼才作家が描写する恐るべき未来社会。究極のハードSF。

扉より

 まだ途中までしか読んでいませんが、むちゃくちゃ面白いです。とにかく濃密で、SF的なネタも濃ければ、哲学的なものも核心をついた考えさせられることがあちこちにちりばめられていて、濃密です。一冊でこんなにおなかいっぱいになれるSFには、なかなかお目にかかれません。


 ジェンダーの設定を通して問題にされているのは、あとがきによると、「性別によって他人から勝手に定義されることの拒絶」だそうです。この言葉は、私が時々直面する漠然と感じていた不快感を、なんて適切に簡潔に言い表しているんだろうと感心しました。このSFには、強化男女、微化男女、転男女、汎性、と、7つの性別が登場しています。詳しい定義はまだ説明されていないのですが、

「7つのジェンダー――そのいずれもが一枚岩のように語られる。だれもかもがひと目で型にはめられる。そんなふうに分類枠がふたつから七つになるのは、進歩じゃないわ」P70より

なんて一文など、まったくそのとおりだと思います。そのほかにも、勝手に定義されることへの拒絶は、性別によるものだけではなく人種や病気によるものなど、繰り返し登場しています。


 また、「意見を異にしたり、理解できなかったりする人々に向けて提供できる、もっとも押し付けがましい3つのHワード」など、自戒も込めて、たいへん興味深いです。