『火星夜想曲』

あらすじ

時間を自在に渡る火星の“緑の人”を追って、アリマンタンド博士がたどりついた砂漠のオアシス。そこに徐々に人々が住み着き、<荒涼街道>という町ができた。住人たちはさまざまな驚異と奇跡を体験してゆくが……半世紀にわたる火星の物語を詩的に織りあげ『火星年代記』の感動を甦らせる、叙情にみちた話題作。

目録より

 荒涼とした火星の砂漠に、デソレイション・ロードというひとつの街が建設され、人々が集い、街が膨れ上がり、巨大企業ができ、やがて衰退していく様子を描いた物語。火星に緑の小人(さすがにタコ型ではないが)が登場する、今となっては夢の様な(笑)SF。最初はタイトルが感傷的なので興味を持たなかったが、読んでみたらそんなことはなかった。


 何と言ってもこの物語は淡々としたその語り口が非常に詩的で、魅力的である。フルネームで綴られる登場人物の名前の響き、火星の砂漠に吹きすさぶ風、砂、荒涼感。デソレイション・ロードに入植した住民それぞれのエピソードが、タペストリーを織りなす糸の様に鮮やかに綴られる。皆一風変わった個性的な人々で、様々な欲望に突き動かされ行動している。現実感は全く薄く、荒唐無稽で物語的要素が強い。


 一応の主人公は街を創設したアリマンタンド博士だが、その他にも変な人達が大勢登場し、同じようなボリュームで語られる。最後に街の運命をかけてアリマンタンド時間巻上機(ネーミングのアナクロさが良い)を廻る争いになる。


 ただ登場人物があまりに多いため、誰がどの人だかわからなくなる。しかも街の住人の家族一人ひとりのことまで誰が何をしたか事細かく書かれているため、把握しきれなくなりがちである。しかしそれを補って余りある魅力的な世界が展開される。雰囲気を楽しむ小説で、その評価はSFファンの中でも意見はいろいろ別れていたけれど、私としては非常に気に入った作品。