『無限の境界』
- 著者:ロイス・マクマスター・ビジョルド
- 訳者:小木曽絢子
- 出版:東京創元社
- ISBN:4488698042
- お気に入り度:★★★★★
ヴォルコシガン・サガ・シリーズ。『親愛なるクローン』の後地球に帰ったマイルズが、上官に金の使い道を問われて昔を懐古するというオムニバス型式でまとめられた短篇集。「喪の山」20歳、「迷宮」23歳、「無限の境界」24歳の時の話。私はこの作品からこのシリーズを読み始め、大ファンとなった。短篇なので取っ付きやすい。ただ、時間関係が少し前後しているのでとまどうかもしれない。
「喪の山」
士官学校を卒業したマイルズが、任官前の休暇中、父の治める領地で起こった殺人事件を捜査するために派遣される。『戦士志願』と『ヴォル・ゲーム』の間の話。被害者は口唇裂の嬰児で、奇形を忌むバラヤーの僻地ではいまだに偏見が根強く残り、こうした間引きが行われていた。教育が遅れ、首都とは異なり情報も入って来ない片田舎に来てみて、マイルズはあらためてバラヤーの実状に直面する。単に事件を解決するだけでなく、どうすれば彼らの為になり今後の偏見を無くしていけるのかを見すえた裁きに、彼の優しさが現れている。そういえば『戦士志願』でエレーナを連れてベータに向かったのも、バラヤーの古い因習に縛られて自分を過小評価しているエレーナに、外の世界を見せてやりたかったからだった。
「迷宮」
『ヴォル・ゲーム』と『親愛なるクローン』の間の話。クローンや臓器の売買といったことを合法的に行えるジャクソン統一惑星に潜入したマイルズは、改造戦士として遺伝子操作の実験で狼と掛け合わされて作られた女性、タウラを救出することになる。異常に力が強く怪物扱いされ、名前も持たない彼女だったが、マイルズはちゃんとした人間として扱い、彼女の信頼を得て脱出する。その他にもクァディという無重力下での作業に適したように造られた種族が登場する。彼らは脚の替わりに手が生えている。『自由軌道』では、クァディを主人公に、彼らが自分達で独立するストーリーが描かれている。
「無限の境界」
『親愛なるクローン』の直前の話。バラヤーを侵略した宿敵セタガンダの捕虜収容施設に、マイルズは単身乗り込みバラヤーの英雄の救出を図る。しかし事情が変わり、収容されている全員を助け出す作戦に変更される。収容所は一つの大きなドームで、中は無法地帯となっていて、食糧も人数分は供給されているんだけれども取り合いとなるため、弱いものには行き渡らないという状態となっていた。マイルズは身ぐるみはがれながらも次第に皆を説得し、集団に秩序を与え、集団脱走の機会を待つ。その手腕が見事で爽快である。
このシリーズは、主人公自体大きな障害を抱えていて、それを個性として受け入れ、偏見と闘いながら成長していく物語だ。登場人物も、弱い者、不当に扱われている者が多く登場している。けれども、それでいて暗くはならず希望があり、ヒューマニズムに溢れている。マイルズの活躍が見事で面白い。