『ウィンター・ビート』

あらすじ

従妹のペトラが働くナイトクラブは、前衛的なボディ・ペインティングのショーで人気の店だった。だが、店を訪れたわたしはそこに危険な空気を嗅ぎつける。不安は的中。常連客の女性が店の裏で射殺され、容疑者として帰還兵の若者が逮捕されたのだ。息子の無実を信じる父親の依頼で調査に乗り出すわたしは、知らないうちに底知れぬ闇に立ち向かうことに……巨大な敵を前にしても、V・I・ウォーショースキーは挫けない!

カバーより

 V・I・ウォーショースキーシリーズの第14作目。今回は前作からたいして間をおかず刊行された。表紙のイラストも今回はヴィクらしくていい感じだ。


 路地で撃たれた女性をヴィクが介抱するシーンから、物語は始まる。ヴィクの腕のなかで死亡したナディアは、ヴィクの従妹ペトラが働くナイトクラブの常連客だった。このナイトクラブでは、〈ボディ・アーティスト〉という芸名の女性が自分の裸身に描いた絵を見せ、客にも舞台で彼女の身体に絵を描かせるという、前衛的なショーが人気だった。


 ナディアも何度か舞台に上がり、絵を描いていた。ナディアの描いたその絵を見て、以前客のひとりが怒りだしたことがあった。ナディア殺害の容疑者として逮捕されたのはこの男で、イラクからの帰還兵のチャドだった。逮捕直前にチャドは薬物を服用し、意識不明となっていた。チャドの父親は、息子の容疑を晴らしてほしいとヴィクに依頼する。


 このシリーズにしては珍しく、ちゃんと依頼人がいる。今までの事件では、ヴィクは知人や親戚からの頼みごとを断れず、かぎ回っているうちに、事件がかたちとなって浮上するというケースが多かった。そもそもヴィク自身は保険を専門とする探偵なので、殺人事件は専門外なのだ。


 チャドの無実を信じていないながらも、依頼を引き受け捜査にあたるヴィク。一方、ペトラの働くナイトクラブでは、店の雰囲気が悪くなってきていた。非番の警官風の男がペトラにからみ、クラブのオーナーは彼のご機嫌をそこねまいと必死だった。また、〈ボディ・アーティスト〉のペイントブラシにガラスが仕込まれるなど、不穏な状況がつづいていた。ペトラはヴィクに相談をもちかける。


 犯人のめぼしはついたものの、証拠がないためお手上げのヴィク。しかも、少女が命をねらわれ助けをもとめている。解決するために、文字通り一肌も二肌も脱ぎ、一大イベントを画策する。


 今回ペトラは探偵助手として活躍したが、元気がよくて明るいのは取り柄だけれど、お気楽すぎて探偵にはあまり向いていない。彼女は、これまでどおりトラブルを引き寄せる役回りくらいがちょうど良さそうだ。ちゃっかりと新しい職場を見つけているので、次回はそちらの方から何か事件が起こることを期待したい。


 このシリーズでは、ヴィクは身近な人たちから四面楚歌となることが多かったが、さすがにこれだけ巻を重ねると、ヴィクがトラブルに突っ込んでいくことを周囲もあきらめとともに受け入れて、理解をしめしている。ヴィクの頼みごとにはかなり無茶なものもあるのだが、熱意に負けて引き受けている。「ロック」というありがたい称号まで、得意客よりいただいた。あたらしく、ヴィクにあこがれる若い世代のファンも加わった。


 何よりも、ヴィクが恋人と良好な関係を築けているのがうれしい。ことにラストのサプライズ・プレゼントは、ヴィクが落ち込んでいた時だけに、しみるものがあった。ヴィクのように正義感にあふれ、悪を見過ごしにできない人物が一人くらいはいないと、世の中は良くならないだろう。

この世にも多少の正義はある、充分ではないだけでP655より

ロシアのことわざからとった章タイトルだそうだ。