『アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う』

あらすじ

19世紀イギリス、人類が吸血鬼や人狼らと共存する変革と技術の時代。さる舞踏会の夜、われらが主人公アレクシア・タラボッティ嬢は偶然にも吸血鬼を刺殺してしまう。その特殊能力ゆえ、彼女は異界管理局の人狼捜査官マコン卿の取り調べを受けることに。しかしやがて事件は、はぐれ吸血鬼や人狼の連続失踪に結びつく――ヴィクトリア朝の歴史情緒とユーモアにみちた、新世紀のスチームパンク・ブームを導く冒険譚、第一弾

カバーより

 吸血鬼・人狼・ゴーストなどの異界族が社会的に認知され、普通の人間と共存しているという設定の19世紀イギリスを舞台に、主人公のアレクシアが異界族をめぐって活躍するファンタジー。カバーで紹介されているようにスチーム・パンクなのかどうかは、ちょっと微妙だ。そもそもファンタジーにもスチーム・パンクってあるの? ラストはすっかりロマンス小説だが、甘ったるくてうんざりした『闇の船』(感想はこちら)と違って、楽しく読めた。


 邦題がいい。原題は『SOULLESS』だが、『アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う』と、大きく変えられている。ビクトリア時代っぽいクラシカルなイメージが感じられ、変更は正解だったと思う。もっとも、アレクシアは吸血鬼とはほとんど戦っていないのだが…。そもそも敵は吸血鬼ではない。


 主人公のアレクシアは読書好きのオールドミス。上流階級の生まれではあるものの、容姿がすぐれないうえに、勝ち気な性格がわざわいした。この時代の女性像とはかなり異なるタイプのアレクシアだが、何よりも異なっているのは、魂を持たない反異界族だということだ。


 反異界族の持つ特殊能力は、異界族の力を消滅させ、普通の人間と同じにしてしまうことだ。異界族に触れている間だけ、この力は働く。由緒正しい吸血鬼ならアレクシアのことを知っているはずなのだが、はぐれ吸血鬼に襲われそうになったアレクシア。人狼団のボスで、異界管理局(BUR)を指揮するマコン卿をも巻き込んで、アレクシアは大活躍する。


 アレクシアとマコン卿との掛け合いが面白い。初対面のハリネズミ事件以来犬猿の仲だったというふたりの関係は、しだいに変化してくる。マコン卿の副官のライオール教授の「はらばいです」という忠告も面白かった。熱っくるしいマコン卿を冷静なライオールがサポートすることで、マコン卿が引き立っている。


 一方で、情報通の吸血鬼アケルダマ卿もいい味を出している。アレクシアの呼び名の独創的なレパートリーには事欠かないし、美や着飾ることに対する妥協のなさも半端ではない。こんな風に生き生きとした登場人物の設定と、テンポの良い会話の面白さが、このシリーズのいちばんの長所かもしれない。帽子の趣味が最悪なアレクシアの友達アイヴィや、アレクシアに辛辣な母親や妹たちでさえも、良いスパイスだ。


 二作目はすでに邦訳されていて、邦題は『アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う』だ。ちなみに原題は『Changeless』だそうだ。本作のラストを読めば、アレクシアが人狼城に行くことは想像がつく。どんな展開が待っているのか楽しみだ。