『琥珀のひとみ』
- 著者:ジョーン・D・ヴィンジ
- 訳者:浅羽莢子
- 出版:東京創元社
- ISBN:4488681018
- お気に入り度:★★★☆☆
ジョーン・D・ヴィンジの短編集。収録されているのは主に1975年前後に書かれたもので、初版発行は1985年となっている。私はこの作者の長編SF『雪の女王』が好きなので買ってみた。『雪の女王』はアンデルセン作の同名の童話をテキストとしたSFで、「P・K・ディックの作品はどうも…」と言う私にこれが向いてるんじゃないかとSF好きの人が貸してくれたものだ。好きな作家なのに作品数があまりないのが残念だ。
収録作品は以下のとおり。書かれた時期が古いため、すでに現実的でないアイデアのものもある。SFは時の経過とともに陳腐化してしまうことがあるので、旬のうちに読むべきなのだろう。
「ネコに鈴を」
実験動物並に扱われる囚人が、放射能下で生存する地球外生命体が実験動物とされるのを助けようとする。
「高所からの眺め」
地球から離れる一方の、片道の宇宙の旅に志願した女性の日記。
「メディアマン」
他に人のいない衛星上で殺人を目撃したメディアマン。同じく目撃者となった船長の女性を救おうとするが…。
「水晶の船」
植民した星で土民との混血の道を選んだ人々の最後の末裔と、人類が夢に溺れ退廃して生きていることに気付いた少女の物語。
「錫の兵隊」
女性宇宙飛行士と、彼女の帰りを待つサイボーグバーテンダーとの恋愛もの。3年の船旅の間に地上では25年が経過してしまうギャップが面白い。作者の処女作。
それぞれの作品の後に作者の解説がついている。作者がどういう意図で書いたかなどをあまり読む機会はないので面白かった。特に「メディアマン」の解説で「女性読者は物語後にハッピーエンドになると想像するが、男性読者はアンハッピーエンドになると想像するらしい」と書かれていたのが興味深かった。私はハッピーエンド派。こういう感じ方の違いがあるから女性作家の作品のほうが私は好きなのだろう。
私はあまり短編を読まない。SFはそもそも長編のものが多い。設定の説明が必要なのでどうしても長くなるのだろう。長編のペースで読み飛ばすと、文章が凝縮されている短編では、わからなくなってしまう。そこで再び前の方を読み直したりするので、意外と時間がかかる。馴染めないまま読み進み、馴染んだ頃にはもう結末を迎えてしまうのだ。
「水晶の船」は一番馴染みにくかった。人々が麻薬でトリップしていて分かりづらかったのだ。諦めて最初から読み直すことにして1回目は読み飛ばし、1冊読み終わった後で読み返した。ちょっと暗くて陰うつだが、しかしイメージはなかなか美しい。言葉の感じも美しい。
彼女の作品は女性の目を通し言葉で書いたSFという感じがして、違和感がなくて好きだ。ハードな科学理論が展開されるわけではないが、かといってSF風な味付けをしただけというのではなく、きちんとSFに仕上がっている。描き出されるイメージが美しく、萩尾望都や佐藤史生といった少女漫画家の描くSFと雰囲気が似ている。少女漫画の原作にしてもうまくはまることだろう。テーマも恋愛ものが多いのでうってつけだ。