『氷上都市の秘宝』
『移動都市』(感想はこちら)のシリーズの第3弾。前作『略奪都市の黄金』(感想はこちら)から15年が経過し、トムとヘスターの間には娘のレンが生まれている。
アンカレジにロストボーイ達がやってきたことから物語は始まる。やってきたのは前作のラストでしたたかさを見せたガーグル。彼らはアンカレジの図書館に眠る「ブリキの本」を狙っていた。これにレンが巻き込まれてしまう。実際にブリキで作られた、この内容もよくわからない本を巡り、欲望が渦巻き戦いが勃発する。
今回の主な舞台は海洋に浮かぶリゾート都市ブライトン。氷に閉ざされた前作のアンカレジとは打って変わって、明るく華やかでお祭り気分に包まれた街である。とは言え、罠を仕掛けて奴隷商売をしたりと、したたかな一面も合わせ持っている。それもそのはず、この街では前作でトムたちから逃げた詐欺師のペニーロイヤルが市長を務めていた。
レンはこの街で奴隷にされてペニーロイヤルの屋敷に売られてしまう。何とかアンカレジに戻ろうと隙を狙うが、「ブリキの本」を巡る争いに巻き込まれて翻弄される。
レンを助けるために来たトムとへスターをはじめ、彼らの他にもこれまでの登場人物たちが続々とブライトンに集結し、事態は次から次へとめまぐるしく変化する。
少年少女を主人公として繰り広げられる冒険にしては、このシリーズはなかなかどうして血なまぐさい。おとぎ話めいた語り口とは裏腹に、残忍でしたたかだし、勧善懲悪にすらなっていない。1巻目からこのシリーズを通して続いているのは、むしろ弱肉強食という世界観だ。
純粋に良心的なのはトムくらいのもので、それすらも一人で行動させるとたちまち餌食にされてしまうので、汚れ役専門のへスターが救って回るはめになる。
今回は関係者達が続々集結して事態が大きく変化したところで終わってしまった。勢力図は大きく塗り変えられようとしているし、気になる伏線もさまざまに張り巡らされている。移動都市というこの世界の都市のあり方はどうなるのか、トムとへスターの関係ははたして修復できるのか、次作に乞うご期待といったところだ。