『魔王とひとしずくの涙』

あらすじ

太陽系の魔王たちは、このところのゲームで魔王ザンスがひとり勝ちしているのがおもしろくない。そこで今回は、魔王ザンスをロバ頭のドラゴンとしてザンスに送りこみ、そんな姿の彼のためにひとしずくの涙をこぼしてくれるパートナーを見つけられれば、魔王ザンスの勝ち、失敗したらザンスの負けというゲームをすることに。折しも凄まじい魔風と化したハリケーンが迷い込んだため、ザンスはかつてない危機に見舞われる!

カバーより

 ザンスシリーズ第20弾。これまでにも魔王X(A/N)thのゲームの影響でザンスにはさまざまな危機が訪れてきた。今回は魔王X(A/N)th自身がロバ頭のピンクのドラゴン ニムビーに変えられて、ザンスに送り込まれ冒険をする。


 魔王X(A/N)thがゲームに勝つためには、選んだパートナーからひとしずくの涙を流してもらわなければならない。ところが、手違いにより、不細工で愚かで性格も悪いクローリンがパートナーとなってしまった。感受性のない彼女には、涙は最後の一滴しか残っていず、しかもどこに行ったかわからない状態だ。


 一方、魔王が送り込まれた影響で、マンダニアからザンスにハリケーンが迷い込んだ。また、マンダニア人のボールドウィン一家も、キャンピングカーごとザンスに迷い込んでしまった。ボールドウィン一家とニムビーたちは、このハリケーンを鎮めるために奔走する。


 相変わらずのドタバタとダジャレで物事は進んでいくのだが、ラストは思いのほか感動的なものだった。


 ボールドウィン一家は両親と子供3人ペット3匹の愛にあふれた家族であり、彼らの行動を通じてさまざまな愛情の形が描かれている。母親のメアリは母性愛を子供たちに対してのみならず、他のものに対しても惜しみなく注ぐ。ニムビーに対しても同様で、万能な魔王といえどもおとなしくその世話を受けている。


 一家はお互いに愛情の絆で結ばれている。ペットに対しても同様で、ペットたちも人間や仲間のペットに同様の愛情を持っている。また、長男のショーンはエルフに真剣に恋をする。これもひとつの愛情の形である。クローリンは自分の家族からは虐待され続けてきたが、ボールドウィン一家から他者を愛するということを学んで変化する。


 このシリーズは冒険自体はノリが軽く、お約束のパターン*1がどう展開するかと、ダジャレと、お色気への小学生並みの興味と、かつての登場人物たちの再登場や後日譚などで主に構成されているが、本質的な部分がきちんと真面目に描かれているため、安心して読めるし読後感が良い。中でもこの作品はなかなか感動的だった。

*1:よき魔法使いハンフリーの城に入るための三つの関門や、ドラゴンの棲む大裂け目の渡り方など、毎回変化する