『NINE』

 ミュージカルはけっこう好きなので、CMで歌われていた「Be Italian」が気になり、ミュージカル映画『NINE』を観て来た。天才映画監督のグイド・コンティーニと彼を愛する女性たちとの関係を描いたミュージカルだ。


 グイドはクランクイン直前になっても新作のシナリオを1行も書けていない。創作の苦しみの合間に、彼を愛する女性たちが彼の妄想に現れては、歌い踊る。妻や愛人、映画に欠かせない主演女優、親友の衣装デザイナー、母親、グイドを崇拝する雑誌記者、少年時代にときめいた娼婦などだ。グイドはシナリオが書けない苦しみを女性たちになぐさめてもらいたいのに、女性たちとの関係は泥沼にはまり、事態はますます悪化する。


 キャスト陣がたいへん豪華で、音楽とダンスが素晴らしい。また、元が舞台だっただけあって、立体的なセットを使った群舞がいくつもあり、見応えがある。素晴らしかったのでもう一度観に行きたいくらいだ。


 特に、ファーギー演じる娼婦サラギーナが、生命感にあふれていて迫力がある。「燃える恋をしろ。チャンスをつかめ。イタリア男なら、明日はない覚悟で今日を生きろ!」とタンバリンを片手に砂を蹴散らして迫ってくるサラギーナ。たくましいジプシーのおばちゃんといった感じだが、少年時代のグイドたちと海岸ではしゃぐ姿は無邪気でかわいらしい。刹那に生きる潔さとエネルギーを感じさせる。


 女性から見ると、グイドは女性を大切にしないひどい男だ。けれども、本人には何が悪いのか全くわかっていない所が痛い。「自分が何をした」「自分は悪くない」となるし、自覚が無くて本音だからこそ余計に始末が悪い。それでもモテてしまうし、才能があるから周りも放っておかない。男性からすればうらやましい限りだろうが、結果的には周りの女性たちを傷つけてしまう。彼の言い分もわからなくはないが、愛想を尽かされても自業自得としか言いようがない。


 それにしても、仕事でこういう事態になって巨額のお金が消えていくのを見るのは辛そうだ。何かを創造しようとすると、並々ならないエネルギーを必要とするものだ。身を削り、私生活を投げ打って、創造のエネルギーに代えなければ生み出せない、というのもわからなくはない。天才も楽ではなさそうだ。