『銀河北極』

あらすじ

2043年、イラベル・ベーダ船長が乗り組む旅客星間船イロンデル号は、ハイパー豚の宇宙海賊セブンの罠にかかり、辺境の彗星上で捕獲されてしまう。信頼を寄せていたマルカリアンの裏切りで、冷凍睡眠処置をされた乗客の一部を連れ去られたイラベルは、マルカリアンと乗客を追って、遥か銀河の果てへと向かった! 数万年におよぶ銀河の追跡行を無類のスケールで描いた表題作ほか、5篇を収録する宇宙史作品集

カバーより

 『火星の長城』(感想はこちら)の続篇となる短篇集。収録されているのは、「時間膨張睡眠」「ターコイズの日々」「グラーフェンワルダーの奇獣園」「ナイチンゲール」「銀河北極」。相変わらずスプラッタでグロテスク。特に「ナイチンゲール」がグロい。戦争で負傷した人々を癒すために建造された病院船ナイチンゲール号。廃船となったその宇宙船への潜入作戦が描かれている。


 「グラーフェンワルダーの奇獣園」は、最初、『カズムシティ』の同じ事件を別の人物の視点から描いているのかと思った。あまりにそっくりな話だったからなのだが、どうやらそういうわけでもないらしい。さすがにこれはNGだろう。もっとも、『カズムシティ』の後書きに、短篇を長篇に書き直したと書かれていた気がしたので、この短篇がベースとなっているのかもしれない。


 表題にもなっている「銀河北極」は、レナルズの宇宙史の遥か未来まで、何万年というスケールで描かれていて、壮大なSFとなっている。愛と復讐を胸に抱いて、膨大な時間をかけた追跡劇が繰り広げられる。ラストでは、この銀河系がそこに住む生命ごと終焉を迎えようとしている。それにしても、一人の人間の決断の影響が、これだけの年月を経ても吸収されることなく、これほど歴史に大きく影響を与えるというのは、あまりありえないように思える。