『TAP』

あらすじ

脳に作用してあらゆるものを言語で表現することを可能にするインプラント“TAP”。それを使用していた世界最高の詩人が謎の死を遂げた。詩人の娘から事件の究明を依頼された私立探偵は捜査に乗り出すが……表題作「TAP」、体外離脱体験を描いた“世にも奇妙な物語”「視覚」、一人称による饒舌な語りの異色作「悪魔の移住」、ホラー作「散骨」、イーガンの科学的世界観が明確に刻まれた名作「銀炎」ほか、すべて本邦初訳で贈る全10篇を収録。

帯より
収録作品

「新・口笛テスト」「視覚」「ユージーン」「悪魔の移住」「散骨」「銀炎」「自警団」「要塞」「森の奥」「TAP」

 「奇想コレクション」第16回配本のイーガンの短篇集。このコレクションを買ってみたのは実は初めてだ。明るく柔らかなタッチのイラストをカバーに使い、ソフト路線のSFを取り揃えたという印象が強いコレクションだ。今まであまりSFになじみのなかった読者層を取り込もうと狙っているのだろう。逆に言えば私にはちょっと物足りない気がして購入に至らない。


 短篇は、その作品の世界に入り込む前に読み終わってしまうのでどうも苦手だ。イーガンの作品も、短篇だとアクの強さが際立つような気がする。


 読みやすいのが「新・口笛テスト」や「視覚」あたり。「視覚」は、幽体離脱を取扱いながら、ホラーに向かわずアイデンティティというか自我とは何かという方向にもってっているあたりが、イーガンらしい。他にもアイデンティティを取り上げた作品がいくつかある。「悪魔の移住」や「散骨」「自警団」などは、ちょっとホラーがかった作品。「TAP」は最初は頭に入りづらくて文字だけ追っている状態だったのだが、途中から読み直してみたら面白かった。ミステリ仕立てのSF。


 今回私が注目したのはこの文章。

あるレベルでわたしたちは、すべての中でもっとも苦労して手に入れた真実を、いまだに信じこめずにいるのだ。『宇宙は人間になど無関心だ』ということを。P170