『天冥の標I メニー・メニー・シープ』(上・下)

あらすじ

西暦2803年、植民星メニー・メニー・シープは入植300周年を迎えようとしていた。しかし臨時総督のユレイン三世は、地中深くに眠る植民船シェパード号の発電炉不調を理由に、植民地全域に配電制限などの弾圧を加えつつあった。そんな状況下、セナーセー市の医師カドムは、“海の一統”のアクリラから緊急の要請を受ける。街に謎の疫病が蔓延しているというのだが…小川一水が満を持して放つ全10巻の新シリーズ開幕篇。

カバーより

あらすじ

謎の疫病の感染源は、出自不明の怪物イサリだった。太古から伝わる抗ウイルス薬で感染を食い止めたカドムだったが、臨時総督府にイサリを奪われてしまう。一方、首都オリゲネスの議員エランカもまた、ユレイン三世の圧政に疑問を抱いていた。彼女は自由人の集団“恋人たち”と知りあうが、ユレイン三世はその大規模な弾圧を開始する。新天地を求めて航海に出た“海の一統”のアクリラは、驚愕すべき光景を目にするが…

カバーより

 時代は29世紀。植民星メニー・メニー・シープが舞台。セナーセー市の《海の一統アンチヨークス》の間で疫病が広がった。先祖から伝わる抗ウィルス剤でこの疫病の蔓延をふせいだ医師セアキ・カドムは、感染源だった鱗におおわれた怪物イサリの保護を申しでる。イサリは咀嚼者フェロシアンだった。


 この惑星には化石燃料が存在せず、エネルギーは植民船シェパード号からの電気の配給に頼っていた。しかし、これを統治する臨時総督ユレイン三世は、この配給を厳しく制限しはじめていた。電気や窒素の配給は、日増しに深刻になっていた。こうしたことから、《海の一統》の宗家アウレーリアの跡取り息子アクリラは、新天地をさがすため、帆船に乗りこみ封鎖を突破する。しかし、彼らが見つけたのはとんでもないものだった。


 《恋人たちラバーズ》の住むカーリンドン地区では、電気の配給制限がとりわけ厳しくなっていた。議員エランカは《恋人たち》と知り合い、ユレイン三世の弾圧をくつがえそうと活動をはじめる。革命の機運が盛りあがり、《海の一統》も蜂起した。多くの人々を巻きこんで激しい戦闘が繰り広げられ、怒濤のラストで急転直下、人類滅亡となりそうな大災厄を予感させながら、第1巻が終了。


 起承転結で言えば、用語の説明も前後の経緯もわからないままいきなり〈転〉から始まって、「乞うご期待!」とばかりに〈結〉の直前で終了してしまった第1巻だ。このシリーズ構成にしびれる。この分だとこれに続く〈結〉は第10巻までおあずけとなるのだろうか。メインキャラクター達は惜しげもなく使い捨てられているし、メニー・メニー・シープは人々から信じられてきた植民星ではなさそうだということが示唆されているし、地球はどうなっているのかもわからない。ラストには、こんな謎の文もある。

 かつて六つの勢力があった。
 それらは「医師団リエゾン・ドクター」「宇宙軍カバラ」「恋人プロスティテュート」「亡霊ダダー」「石工メイスン」「議会スカウト」からなり、「救世群ラクティス」に抗した。
救世群ラクティス」は深く恨んで隠れた。
 時は流れ、植民地が始まった――。下巻 P357より


 作者のあとがきによると「ちょ、おいィ!?」と叫ぶとあるが、謎だらけで大風呂敷を広げた構成に大満足の私は、「うーん、いいねぇ〜」とうなりっぱなしだった。とりあえず「ダダーめ!」と言ってみる(←お気に入り)。