『ゴーレム100』

あらすじ

22世紀のある巨大都市で、突如理解不能の残虐な連続殺人事件が発生した。犯人はゴーレム100、8人の上品な蜜蜂レディたちが退屈まぎれに執り行った儀式で召喚した謎の悪魔である。事件の鍵を握るのは才気あふれる有能な科学者ブレイズ・シマ、事件を追うのは美貌の黒人で精神工学者グレッチェン・ナン、そして敏腕警察官インドゥニ。ゴーレム100をめぐり、3人は集合的無意識の核とそのまた向こうを抜け目眩く激越なる現実世界とのサブリミナルな世界に突入、自らの魂と人類の生存をかけて闘いを挑む。しかしゴーレム100は進化し続ける……
虎よ、虎よ!の巨匠ベスターの最強にして最狂の幻の長編にして、ありとあらゆる言語とグラフィックを駆使して狂気の世界を構築する超問題作がついに登場!

カバーより

 タイトルは『ゴーレム100乗』と読む。『虎よ、虎よ!』(感想はこちら)に引き続き、パワフルで映像的で猥雑感あふれる小説だ。しかし原作が発表されたのが1980年だからか、古くさい印象がある。『虎よ、虎よ!』も少し古くさく感じたものだが、それから30年ほど経って書かれたにもかかわらず、古くさい印象があまり違わないのはどうしたものなのか。特に蜜蜂レディ達の様子があまりにロココ調でピンと来ない。それにシマの使っているくだけた口調もしっくり来ない気がする。後書きなどを読むと『フィネガンズ・ウェイク』などにも触れているので、あんな具合に造語がたくさんあって訳しにくい原作だったのだろうか。


 『虎よ、虎よ!』以上にイラストが多く、真ん中あたりが何ページにもわたってイラストで表現されている。それらのイラストは、精神的な世界での体験を表現したものだが、一方で現実の世界では、そのイラストに呼応して様々な事件が起こっている。ストーリーとイラストがうまい具合に融合されていて、作者の技の巧みさを感じさせる。その一方でストーリーの展開はかなり強引で、こじつけも無理矢理だ。説得力のない突飛な理屈でも、登場人物達は疑問なく受け入れている。その分テンポが良いとはいえる。リアリティはないので、ぶっ飛んだ世界観を楽しむという作品。


 実験的な試みが意欲的で面白いのだけれども、あまり私の好みの題材ではないというのと、表現上もストーリーも古くさい印象がどうしても拭えないので評価は低くなっている。考えてみれば、この後にサイバーパンクが流行り、今ではそれさえも古くさく感じられるのだ。本書からはそのサイバーパンクの兆しのようなものが何となく感じられる。だからこそよけいに古くさく感じられるのかもしれない。旬の時代に邦訳を読めていたなら、違った印象だったかもしれない。