『ルーグナ城の秘密』

あらすじ

八世紀前に17歳で幽霊にされたミリー。彼女は今では呪文をとかれて美しい女性になっていた。しかし、ミリーの恋人ジョナサンは、相変わらず腐肉をしたたらせるゾンビーの姿をしていた。このふたりに同情を寄せるビンクの息子ドオアは、なんとかジョナサンをもとの姿に戻して、ミリーと結婚させたいと思った。それには復活の霊薬がいる。だが、その霊薬は八百年前のザンス――危険極まりない第四次移住時にしかないのだ!

カバーより

〈魔法の国ザンス〉シリーズ3巻。1巻『カメレオンの呪文』(感想はこちら)と2巻『魔王の聖域』(感想はこちら)の主人公はビンクだったが、今回は2巻のラストで生まれたビンクの息子のドオアが主人公となっている。


 ドオアは生命のない物と話をすることのできる魔法の能力を持って生まれてきた。これは強力な魔法なので、いずれは彼がザンスの王となることが期待されている。ザンスでは強力な魔法使いが王となる慣習だった。しかしドオアはまだ12歳で、身体つきも貧弱なうえ経験も浅く、自分に自信を持てずにいた。また2巻でビンクが幽霊から人間に戻したミリーはドオアの乳母としてドオアと一緒に暮らしていたが、彼女の魔法の力は「性的魅力」だったため、ドオアは気になって仕方がない。ドオアはトレント王と話し合った結果、ミリーの親しいゾンビのジョナサンをもとの人間に戻す薬を求めて冒険をすることになった。


 ドオアは800年前に遡り、一人の屈強なマンダニア人(魔法の力を持たない普通の人間)の身体に入り込む。そこでルーグナ城の築城をかけて争われていた、ルーグナ王が王位にふさわしいことを証明するための魔法の戦いに巻き込まれる。この闘いはマンダニア人による襲撃や、ハーピーとゴブリンの大規模な戦争という事態にまで発展し、ドオアは貴重な経験を得る。


 1巻や2巻に登場した人物や起こった出来事が、きちんとここで、登場していたり、謎が解けたり、進展していたりする。どういう経緯でそうなったのか明かされたりしているので面白い。今回の見どころは2巻で幽霊から人間へと戻ったミリーが幽霊となったいきさつだ。


 ドオアは屈強なマンダニア人の身体のおかげで自信を得た。またもとの時代から一緒に時間を遡ってきて親友となった蜘蛛のジャンパーの大人としての考え方に学んだり、さまざまな経験を重ねることで、次第に成熟した大人としての懸命なものの見方を身につけていく。大人になるということはどういうことなのか、成長物語としても良く出来ていると思う。


 このシリーズを読んでいて感心するのは、作者の考え方がバランスがとれていて健全なことだ。不必要な戦いは避け、敵でも協力した方が効果的な場合は信頼して協力する。ザンスでは慣習的に女性には王位継承権がないのだが、しかし女性だから劣るという観点で描かれてはいない。むしろ対等の敬意をはらうべき存在として魅力的に描かれている。


 登場人物たちも自分をごまかしたり、見たくないものから目をそらして逃げたりせず、勇気を持って困難な状況に立ち向かい、好感が持てる。また、見かけにとらわれずに評価するべきものは評価するという姿勢も健全で、幽霊だったミリーも、ゾンビーをあやつるゾンビーの頭も、グロテスクで怪物のようにでかいと当初思われた蜘蛛のジャンパーも、気高い行動が評価されている。ここのところ、幼稚で逃避を正当化したがるヒーロー像にうんざりしていたので、こういう健全なヒーロー像や成長物語は清清しく感じた。