『魔王の聖域』

あらすじ

魔法がすべてを支配する別世界ザンス。なぜ、この地にはかくも魔法が満ちているのか? この謎を解明せんと、王室調査官ビンクは魔法の源を求めて旅に出た。護衛役はセントールとグリフィン、しかも案内人は魔法使いハンフリーという顔ぶれ。まさに鬼に金棒、敵意ある魔法の脅威など恐るるにたらぬとばかり、ビンク一行はザンスの秘境へと向かったが…。アメリカ本国で大ベストセラーを記録する人気シリーズ第二弾。

カバーより

 魔法の国ザンスシリーズ第2作目。あまり店頭で見かけないザンスシリーズだが、大きな本屋に行く機会があったので購入。ぼちぼちと読んでいくつもりだ。



 前作『カメレオンの呪文』(感想はこちら)で、新しい王が魔法の国ザンスの王位に付き、ビンクが王室調査官に任命されてから、1年がたった。ビンクは王の命令で、ザンスの魔法の源を見極めるための旅に出る。同伴者はセントール(上半身が人間で下半身が馬)のチェスターと、兵士クロンビー。クロンビーの持つ魔法の力は、正しい方向を察知し指し示すことができるというものだった。移動の便のためにクロンビーはグリフォンに姿を変えられ、ビンクはチェスターの背中に乗って、旅に出た。途中強力な魔法使いハンフリーと、グリフォンになったために言葉が通じなくなったクロンビーの通訳としてゴーレムのグランディが加わり、旅は続けられる。


 それぞれ自分の求める答えを得るために旅をするところは、『オズの魔法使い』と少し似ている。グランディは自分が本物の生き物ではないことを悩み魂を手に入れたがっている。チェスターは魔法を忌み嫌う種族のセントールではあるが、自分自身に魔法の力があるかどうかを知りたくて悩んでいる。ハンフリーは知識を求め、ビンクは自分の力の性質がザンスの魔法の源とかかわりがあって命を狙われている原因を探ろうとしている。


 旅はザンス特有の魔法の力でさまたげられ、スラップスティックともいえる騒動が次々とおこる。ザンスにはドラゴンやマンドレイクグリフォンなどといった伝統的な怪物も多いのだが、ザンスにしかいないであろう魔法的な存在も多い。例えば靴の実る靴の木や、サクランボ爆弾の木、酸を吐く酸化猫、ドアノブの木、絵画羽バエ、頭脳サンゴ、etc…と、単に便利なだけのものから思わぬ危険なものや、何だかわからないものまでさまざまなものがあり、ひとつとして同じ魔法はない。旅ではこれらの魔法が原因で騒ぎが引き起こされるのだが、真剣に戦っていてもどこかおかしみがある。


 幽霊を人間に戻し、ドラゴンに追いかけられ、悪魔を瓶から助け出し、星座の攻撃をかわし、セイレーンやゴルゴンの誘惑を退け、ニンフと恋に落ち、ザンスの魔法の源を解き放つ、そんな大冒険が繰り広げられるのがこの物語なのだ。あっけらかんとした明るさと、ビンクの持つ道徳的な正しさが、このシリーズのハチャメチャさ加減とうまくバランスをとっているように思える。