『終りなき戦い』

終りなき戦い (ハヤカワ文庫 SF (634))

あらすじ

画期的な新航法“コラプサー・ジャンプ”の発見で、人類はその版図を一挙に拡大した。だがその進路に、突如異星人“トーラン”が出現。この正体不明のエイリアンと人類は、ついに全面戦争に突入した!かくして特殊戦闘スーツに身を固めた戦士たちが辺境宇宙の戦地へと赴いたものの、戦況はいやがうえにも泥沼化していく……俊英が壮絶な星間戦争を迫真の筆致で描き、ヒューゴー、ネビュラ両賞を受賞した傑作戦争SF!

カバーより

 始まった理由もよくわからず、戦う相手も謎に包まれたまま、1000年以上に渡って延々続く戦争に翻弄される兵士の愛と戦争の話。1975年に発表された作品であるため少し内容や文章が古臭いところもあるが、普遍的な内容を取り扱っているため良い作品としてじゅうぶん通用すると思う。


 1990年代後半、縮潰星コラプサー重力場を利用した航法により、本格的に宇宙への移民が始まった。ある日移民船が全滅し、自動探査機のデータによってどこかの宇宙船に破壊されたことが判明したことから、異星人トーランの撲滅をかかげて軍隊が派遣されることになった。主人公のマンデラは徴兵され、この最初の奇襲作戦に配属された。以来客観時間で1000年以上にわたって否応なしに戦争に参加することとなる。


 この話には驚くほど敵となるトーランの事が出てこない。どんな姿かどういう生活をしているのか謎のまま。戦争が始まった経緯もさらっと触れられているだけで、よくわからない。にもかかわらず戦争は続いてゆく。戦う相手が希薄なため、かえって味方の軍の理不尽さや汚さ、戦争のむなしさが強調されている。


 ウラシマ効果(最近ではあまりこう呼ばないような気がするが)を伴うコラプサー・ジャンプのせいで、地球での客観時間と船内での主観時間では大きく差が開く。戦地に赴くために移動するごとにタイムラグは広がる。8ヶ月の間に9年が、2年の間に26年が過ぎ去る。遠い赴任地に行くと戻ってくるときには700年が経過してしまう。地球の状況は大きく変わり、時代は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら飛び去っていく。

いったいいくつの星に植民がおこなわれたのだろう?腕を失い、新しいのが生えてくるあいだに?
 一年を一年としてすごせたら、どんなにすてきだろうか。本文より

 タイムラグは戦争にも大きく影響を与える。SFとしてはこのことで面白くなっている。補給部隊が到着すると、その装備は前線の兵士が地球を出たときに比べて格段に進んだものとなる。マンデラの使用する装備もどんどん変化してゆく。しかし、敵も同様なのだ。


 この作品は、ベトナム戦争に参戦した作者が戦争SFを描くことでベトナム戦争を隠喩したというのが一般的な評価のようだ。この作品の中の戦争は理不尽で、ここまで長期化した戦争なのに何のための誰のための戦争かがむなしくてやりきれない。時代が欲し、ディスコミュニケーションが生んだ悲劇である。現在戦争の歴史が相変わらず繰り返されていることが非常に残念だ。