『終りなき戦い』
- 著者:ジョー・ホールドマン
- 訳者:風見潤
- 出版:早川書房
- ISBN:4150106347
- お気に入り度:★★★★☆
始まった理由もよくわからず、戦う相手も謎に包まれたまま、1000年以上に渡って延々続く戦争に翻弄される兵士の愛と戦争の話。1975年に発表された作品であるため少し内容や文章が古臭いところもあるが、普遍的な内容を取り扱っているため良い作品としてじゅうぶん通用すると思う。
1990年代後半、
この話には驚くほど敵となるトーランの事が出てこない。どんな姿かどういう生活をしているのか謎のまま。戦争が始まった経緯もさらっと触れられているだけで、よくわからない。にもかかわらず戦争は続いてゆく。戦う相手が希薄なため、かえって味方の軍の理不尽さや汚さ、戦争のむなしさが強調されている。
ウラシマ効果(最近ではあまりこう呼ばないような気がするが)を伴うコラプサー・ジャンプのせいで、地球での客観時間と船内での主観時間では大きく差が開く。戦地に赴くために移動するごとにタイムラグは広がる。8ヶ月の間に9年が、2年の間に26年が過ぎ去る。遠い赴任地に行くと戻ってくるときには700年が経過してしまう。地球の状況は大きく変わり、時代は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら飛び去っていく。
いったいいくつの星に植民がおこなわれたのだろう?腕を失い、新しいのが生えてくるあいだに?
一年を一年としてすごせたら、どんなにすてきだろうか。本文より
タイムラグは戦争にも大きく影響を与える。SFとしてはこのことで面白くなっている。補給部隊が到着すると、その装備は前線の兵士が地球を出たときに比べて格段に進んだものとなる。マンデラの使用する装備もどんどん変化してゆく。しかし、敵も同様なのだ。
この作品は、ベトナム戦争に参戦した作者が戦争SFを描くことでベトナム戦争を隠喩したというのが一般的な評価のようだ。この作品の中の戦争は理不尽で、ここまで長期化した戦争なのに何のための誰のための戦争かがむなしくてやりきれない。時代が欲し、ディスコミュニケーションが生んだ悲劇である。現在戦争の歴史が相変わらず繰り返されていることが非常に残念だ。