『天冥の標8 ジャイアント・アーク』(Part1・Part2)

シリーズ第8弾のPart1は、シリーズ第1弾をイサリの側から見た物語。ようやく最初の物語に繋がった。両方合わせて読むと事情がよくわかる。

また、文字通り暗闇に閉ざされて終わったシリーズ第1弾に、希望の光が差し始める。イサリはMメニー・Mメニー・Sシープへ使命を果たすためにやってきていた。しかし、人々は真実をまるで知らず、彼女は何をどう伝えれば良いのかわからなかった。

Part2では、MMSの真の姿を知った人々が、新しい世界をどうするべきか模索する様子が描かれている。地上の様子を確かめに行くカドムたち一行の冒険と、新政府を樹立したエランカたちがMMSを復興していく様子と、復活を遂げたアクリラの物語が交錯する。

『天冥の標Ⅷ ジャイアント・アーク』(Part1)

あらすじ

「起きて、イサリ。奴らは撃ってきた。静かにさせましょう」――いつとも、どことも知れぬ閉鎖空間でイサリは意識を取り戻した。ようやく対面を果たしたミヒルは敵との戦いが最終段階を迎えていることを告げ、イサリに侮蔑の視線を向けるばかりだった。絶望に打ちひしがれるイサリに、監視者のひとりがささやきかける――「人間の生き残りが、まだいるかもしれないのです」。壮大なる因果がめぐるシリーズ第8巻前篇。

カバーより

セレス南極に降着していたハニカムで、イサリはアイネイアを逃した罰として長期間眠らされていたが、皇帝により起こされた。硬殻化クラストライゼーションした《救世群ラクティス》はオガシのように猛獣化するため、他にも多くの人々が眠らされていた。ハニカムはあまりにも変わっていた。

セレスには非染者ジャームレスが潜んでいる兆候があり、イサリは使者として行く決意を固める。しかし、計画は副議長のアシュムに発覚して追われ、そのまま警告に向かった。

途中、凄まじい光とドロテア戦艦を見た。案内役によると、セレスの中心核に竪坑を掘ってドロテアを入れ、惑星に重力を加えていた。彼の犠牲によって逃げ延びたイサリは、エレベーターでダダーに話しかけられて協定を結び、Mメニー・Mメニー・Sシープへたどり着いた。

そこではあまりにも平和な日常生活が営まれていて、驚くイサリ。しばらく隠れていたが見つけられて追われ、咀嚼者フェロシアン化してしまった。イサリを捕まえたのはアイネイア・セアキによく似たカドム・セアキだった。

現在は2803年で、イサリが眠らされて300年も経っていた。人々は《救世群ラクティス》のことを忘れていた。また、ここがセレスの地下だと知らず、植民地だと信じていた。おまけに内部では臨時総督との間で抗争が起きていた。

イサリは事情を正しく知っていると思われた臨時総督に投降し、彼らが石工メイスンと呼び手先として使っているカルミアンを味方につけた。彼女たちの偽装でイサリは地下道で自由に動けるようになった。

イサリはカルミアンから言葉を習い始め、記憶も共有できることがわかり、急速にMMSの裏事情を把握し始めた。MMSはドロテアから電力を供給し、ダダーがそのことをMMS側にもドロテア側にも隠していた。また、臨時総督ユレイン三世は植民地側でただ一人事情を知り、先導工兵イオニアを使って咀嚼者フェロシアンと戦っていた。攻撃は激化していて、防衛するために電力をかき集める必要があった。

こうしたことをいっさい知らないMMSの人々の間では、臨時総督を倒そうとする動きが大きなうねりとなっていた。また、人々はドロテア戦艦をシェパード号だと勘違いしていて、臨時総督から奪おうとしていた。イサリだけは、それでは問題は解決しないとわかっていたが、止められなかった。

カドムとアクリラたちはフォートピークへ出発し、やがてMMSの全土が闇に包まれた。革命後に起きる事態にイサリは備えようとしたが、カルミアンの様子がおかしかった。

ついに咀嚼者フェロシアンが大勢現れ、カドムがミヒルに傷つけられた。また、《恋人たちラバーズ》のゲルトールトも連れ去られた。ミヒルとの因縁を思い出したラゴスに促され、イサリはようやく自分の知っていることを話せるようになった。

大統領に就任したエランカの一行が来たときには、首都オリゲネスは陥落し、彼女の恋人のラゴスはすでに出発していた。

冬眠状態の石工メイスンを温めて、エランカは尋問した。クルミと名乗るその石工メイスンは明らかにこれまでとは異なって知的になり、巧みにしゃべれるようになっていた。彼女たちは《休息者カルミア》からカンミアとなっていた。エランカはカンミアと合意に達し同盟を結んだ。重要な同盟だった。

ラストで竪坑に落下した後の痛々しいアクリラが登場している。

思えばずっと眠らされていたイサリは、起きている時間のみで考えるとまだ17歳くらいでしかない。せっかく忠告に来たのに、たいした働きができなくても不思議はない。

『天冥の標Ⅷ ジャイアント・アーク』(Part2)

あらすじ

西暦2803年、メニー・メニー・シープから光は失われ、邪悪なる《咀嚼者フェロシアン》の侵入により平和は潰えた。絶望のうちに傷ついたカドムは、イサリ、ラゴスらとともに遥かな地へと旅立つ。いっぽう新民主政府大統領となったエランカは、メニー・メニー・シープ再興に向けた過酷な道へと踏み出していく。そして瀕死の重傷を追ったアクリラは、予想もせぬカヨとの再会を果たすが――ふたたび物語が動き始めるシリーズ第8巻後篇

カバーより

アクリラは食事をしながら話を聞いていた。しかし、その内容はとんでもないものだった。アクリラは何度も耐え難い目に合わされていた。

カドムは一命をとりとめた。フォートピークから脱出した人々は、ここがセレスの地下空間に作られた都市だとイサリから聞かされ、実際に見て確かめるために地表へ行くことにした。

カドム、ラゴス、イサリのほか、《海の一統アンチヨークス》のオシアンや、裏の事情を知っている元臨時総督のユレイン三世など、総勢7名がカドムをリーダーとして出発した。実際には植民地の天蓋を支える支柱だった蒸散塔の内部へ入り、地表を目指す。

カドムは道中、対立するメンバーをまとめ上げ、話をし、イサリからも身の上話を聞く。ラゴスは本物のシェパード号を見つけて昔の記憶を取り戻そうとしていた。咀嚼者フェロシアンも元は人間であり、ラゴスは和解したがっていた。

一方、エランカはクルミが伝えたこの世界の真の姿を発表した。MMSは準惑星セレスをくりぬいた地下空間にあり、臨時総督府はそれを隠して地下から来る咀嚼者フェロシアンを防衛していたが力尽き、大閉日ビッグ・クロージングが起きていた。

政府を立て直し当面の食料や電気を回復させたが、咀嚼者フェロシアンの撃退と地下電源の奪取が必要だった。また、咀嚼者フェロシアンはオリゲネス以外の都市へも現れ始めていた。救出部隊が結成される。

街を取り戻したものの、咀嚼者フェロシアンのウイルスのために多くの人々が冥王斑にかかっていた。救護所ではセアキ家に伝わっていた薬で治療が行われていた。この薬は冥王斑を完治させた上、保菌者にもならずウイルスを消すことができた。しかし、残り少ない薬が盗まれた。ユレインの側女だったカランドラは、隠し持っていた薬の製造法を差し出した。以前カドムがユレインに献上させられたものだった。

カランドラとのやりとりで、《恋人たちラバーズ》のスキットルは、咀嚼者フェロシアンも人間だったことを思い出した。これを伝えられたエランカは、彼らとも共働を目指すという理想を掲げた。

地表を目指すカドムたち一行は、襲ってくる自動修復機械や倫理兵器エチック・ウェポンを交わしながら旅を続けた。蒸散塔から天井裏を抜け、中央管制エリアでこの巨大な箱舟ジャイアント・アークの全貌を確認する。エアロックを抜けて、さらにその上を目指す。

たどり着いた地表の宇宙港で数日探したが、シェパード号は見つからなかった。帰途についた一行は、イサリが見つけたリンゴの木から手がかりを得た。アイネイアの家が面していたコニストン湖がリンゴの先に広がっていた。

しかし倫理兵器エチック・ウェポンに襲われた。すると、かつてカドムに訃報を伝えた二人組が現れた。カドムが助けを求めると二人は流動兵器と化して戦い始めた。彼らはロボットでセレスの人間を守るよう命じられていた。

一方、アクリラは危機を脱し、上へ向かって走り出した。途中、年代物の同胞の服とコイルガンを見つけて身につける。真の敵はオムニフロラだった。彼が出たところは真空で、宇宙には2つの恒星が巨大な放電ジャイアント・アークを放っていた。

まだ本調子ではないが、ようやくアクリラが復活した。最初から個性際立つ元気が良いキャラだっただけに、彼が活躍しないと勢いがつかない。だが、彼が遭わされた仕打ちは相当ひどい。このシリーズは、実はかなりエログロ満載なのだが、エロはシリーズ第4弾で不動だろうが、グロはここが一番ひどいかもしれない。

それにしても、300年経っても狭量な倫理観を押し付けてくる倫理兵器エチック・ウェポンが怖すぎる。