『闇の船』

あらすじ

アテナは物音で目を覚ました。誰かが船室内にいる! 泥棒? それとも……!? 地球の権力者階級〈善き人びと〉の一員である父親の宇宙船内で、なぜかその部下に襲われたアテナは、からくも救命ポッドで脱出、追跡をふりきるため危険なパワーツリーの森に逃げこんだ。だがそこで遭遇したのは、はるか昔、地球を追放され死に絶えたはずの“ミュール”が乗る異形の船だった! 伝説の闇の船ダークシップに囚われた美少女の波瀾万丈の冒険。

カバーより

 権力者の一人娘アテナが追っ手から逃れる途中で“闇の船”に助けられ、恋に落ち、自分の出生の謎に迫る。冒険活劇部分はそれなりに面白いけれど、甘ったるすぎる上にSFとしては今ひとつ物足りない。


 まず、主人公アテナの行動が強引すぎてついて行けない。宇宙船の自室に父親の用心棒が忍び込んでいたというだけで、話も聞かずに先制攻撃でこれを撃退。そのまま救命ポッドで宇宙空間へと逃げ出す。父親が殺され宇宙船がハイジャックされたと推測したからなのだが、実際の状況も確かめずに行動を起こし、父親の声が聞こえても偽物だと疑って、話も聞かず逃げ回る。着の身着のまま宇宙空間へ逃げる方が、はるかに危険に思えるのだが。


 案の定空気が足りず、危険なパワーツリーを目指して採取船ハーベスタに保護されようとするが、採取船は見当たらず、悪評高い“闇の船”に遭遇。ここでもまた話も聞かずに先制攻撃しては逃げ回るという行動を繰り返す。


 そもそもこのアテナがうざったい。やたらと攻撃的で自意識過剰。そのくせ恋愛の期待だけは満々だ。航行途中のあまりの甘ったるさに読むのを止めようかと思った程だった。


 何とか読み進めて惑星エデンに到着してからは少しましになった。エデンの人びとが“闇の船”でパワーツリーからどのようにエネルギーを得ているかとか、地球人との間にどういう歴史があったのかといったあたりはそれなりに面白かった。


 だが、SFのネタがベタすぎてちょっと辛い。著者の傾倒しているハインラインが活躍した頃ならこれでも良かっただろうが、さすがに40年も経った今となっては、こういうことが可能だとはちょっと思えない。もしもこれが可能な程技術が進んでいるのなら、こんな違法でリスクの高い方法を取るよりも、もっと別の方法を検討した方が効率も良かったのではないだろうか。


 それに、『闇の船』というタイトルながら、パワーツリーや“闇の船”が物語にたいして関連していない。こっちのネタを核に物語を展開していれば、もっとSFらしくなって面白かっただろうと思う。