『時間旅行者は緑の海に漂う』

  • 著者:パトリック・オリアリー
  • 訳者:中原 尚哉
  • 出版:早川書房
  • ISBN:4150112061
  • お気に入り度:★★★☆☆

あらすじ

1991年、ぼくはハリウッドでタイムマシンを燃やした。人生でいちばん狂気じみた、この一年の締めくくりとして。一年間でぼくはエイリアンと恋に落ち、忘れられた夢の秘密を発見し、地球を最終戦争から救い、時間旅行の能力を手に入れたのだ。すべてはあの時から、エイリアンの娘と名乗る女性ローラがぼくの診療所にやってきた時からはじまった……! 夢と現実が交錯するディック的世界を描き、英米で絶賛を浴びた話題作

カバーより

 先日読み終わった『不在の鳥は霧の彼方に飛ぶ』と同じ作者の作品。こちらの方が先に発表され読んでいたのだが、『不在〜』を読んだついでに再読。


 この本は『時間旅行者は緑の海に漂う』というタイトルの印象が強烈で、本屋で目をひかれた。手にとってめくってみると書き出しがまた凄い。

ぼくらはハリウッドでタイムマシンを燃やした。本文より


 こんな強烈な書き出しにはなかなかお目にかかれない。まるで要らなくなった家具でも燃やすようなお手軽さ。しかも映画の都、ハリウッドで。そしてこう続く。

『エイリアンと恋に落ち、忘れられた夢の秘密を発見し、地球を第三次世界大戦から救い、自分自身を殺した。』本文より


 かなり奇抜な展開になりそうである。



 セラピストのジョンの元へ、ローラと名乗る女性が患者としてやってきた。彼女はホロックというエイリアンを信じ、自分はホロックと人間の間に生まれて地球とは別の世界で育てられたと主張する。治療の過程でジョンはローラから、ホロックの棲む世界のことを詳しく聞く。ゼリー状の緑の海、横は上下、折りたたまれた空間、夢の部屋。ホロックは夢を見ず人間と夢を共有する。ローラはホロックとの約束上、ジョンに1年以内に彼女の話を信じさせなければならないことになっていた。


 一方ジョンは自分の家族との間に問題を抱えていた。根源には母親との不和があり、それが弟との関係にまで影響を及ぼしていた。物語の進行とともに彼自身の心の問題が明らかになってゆき、それを修復していく物語でもある。また自分自身を愛するようになれるまでを描いた物語でもある。


 ただ一人ホロックのことを話せる新しい友人ソールと共に、ジョンは何が進行しているか分からないまま、渦中に巻き込まれていく。ソールの発明した「どうみてもローテクなただの寝台」のようなタイムマシンで、ジョンはローラを追って未来へと旅立つ。



 フィクションだか狂気だかの区別がつかぬまま語られていくホロックの世界のイメージが強烈。夢と現実、時間と空間、狂気と正常、患者と医者、などの境のあやうさが魅力の個性的な作品。


 原題は『DOOR NUMBER THREE』だ。作品中に「三つ目のドア」という記述もあるので、原作を大切にするならやはり原題を活かすべきだったのではと思う。しかし個人的には『時間旅行は緑の海に漂う』というこの邦題も非常に好きだ。『三番目のドア』とかだとイメージが変わるので、買っていたかどうかはわからない。