『スピリット・リング』
- 著者:ロイス・マクマスター・ビジョルド
- 訳者:梶元靖子
- 出版:東京創元社
- ISBN:4488587011
- お気に入り度:★★★★★
マイルズシリーズで活躍中のビジョルド作のファンタジイ。魔術師を父に持つ少女フィアメッタが、父の魂を利用しようとする闇の魔術師と戦うお話。
舞台は中世ルネッサンス時代のイタリアのモンテフォーリア領。モンテフォーリア公のお抱え金属細工師ベネフォルテは公認の魔術師でもあった。芸術家としての腕前も認めてもらいたいと願うベネフォルテは、近衛隊長のウーリをモデルにプロメテウスのブロンズ像を、3年かけて作り上げようとしていた。
娘のフィアメッタは父の後を継いで魔術師となりたいと願っていたが、女性だからという理由でこばまれていた。それでも自分で作った指輪に密かに術をかけてみるフィアメッタ。
ある日モンテフォーリア公が殺害された。殺害者のロジモ公により、モンテフォーリアは制圧されてしまう。騒ぎのさなかロジモ公の持っていたスピリット・リングに閉じ込められていた死者の魂を、ベネフォルテは無効化してしまう。
追っ手に追われ、逃げるフィアメッタとベネフォルテ。しかしベネフォルテは病で亡くなってしまった。ロジモ公は無効化されたスピリット・リングの代用品として、大魔術師だったベネフォルテの魂を利用しようと遺体を運び去る。
父の魂を救うため、フィアメッタは戦う。最初は文句を言うばかりで、人に頼り、自分の意見も主張できずにいた。この時代、女子供は一人前の扱いをしてもらえないのだ。
しかしこのままではいつまでたっても埒があかないと悟る。覚悟を決め、自ら戦うために出発する。自分の経験で積み上げてきた施術の技術と能力を信じ、迷いや甘えを捨てた彼女は凛として美しい。女性作家の描く自立した女性像は読んでいて気持がいい。
杖と呪文ひとつで気軽にかけられるハリー・ポッターの世界の魔法に比べると、こちらの世界の魔法は大仕掛けで難しい。だが社会に公然と認められていて、職業のひとつとして扱われている。ギルドで認可され、徒弟制度で技術を学ぶものなのだ。ファンタジイの形態をとっているが、本質は、女性が自分の力で社会に進出して自立するお話なのである。