『名誉のかけら』

あらすじ

ベータ星の女性艦長コーデリアは新発見の星を上陸探査中、見知らぬ敵に襲われる。彼女を捕らえた男はヴォルコシガンと名乗った。こんな宙域にいるはずのない辺境の星バラヤー軍の艦長だ。だが彼は、なんと部下の反乱にあって一人とり残されたのだという。捕虜の身ながら、彼女は持ち前の機転で指揮権剥奪に協力することに…後にマイルズの母親となるコーデリアの、若き日の活躍!

カバーより

 ヴォルコシガン・サガシリーズの番外編のような作品で、若かりし(といっても33歳だが)日のマイルズの母コーデリアが主人公。


 惑星で調査に出かけていたコーデリアネイスミスがベースキャンプに帰ってくると、キャンプは何者かに襲撃され、残骸となっており、残りの隊員は艦に避難していた。艦に撤退命令を出し、隊員と二人だけとなったコーデリアは、「コマールの殺し屋」として悪名高いバラヤーのアラール・ヴォルコシガン(マイルズの父)の捕虜となってしまう。


 ところが、アラールは部下の謀反に合い、一人放り出されていた。指揮権を奪回するために補給基地へ向かおうとするアラール。部下を神経破壊銃で打たれ廃人にされてしまったコーデリアは、捕虜宣言をして彼と共に補給基地へ。食料もほとんどなく、未知の惑星の生物に襲われたりしながらの徒歩での強行軍。アラールは、男の真似をするでもないのに職業軍人に徹しているコーデリアに、次第に恋心を抱きはじめる。


 補給基地で、なぜこの惑星にバラヤー軍がいるのか理由を察知したコーデリア。アラールに借りを返し、ベータへと脱出する。その後アラールと再会したのは、エスコバール戦でバラヤー軍の捕虜となった時だった。



 コーデリアとアラールとのラブロマンスといった要素が少し強い。しかし二人の立場は対立しているし、そんなに若くない二人はお互いに過去も背負っていてなかなか進展しない。一方、バラヤーの階級闘争やアラールが皇帝から引きうけた極秘任務は血なまぐさくて政治的。またエスコバールでの戦争などは戦略的と、物語は恋愛要素ばかりが強いというわけではない。


 コーデリアはきまじめで、意外とおろおろしてたり気弱だったりするけれど、表面上はそうは見えず単身敵の真っ只中に潜入したりと活躍する。自由なベータ人から見たバラヤーの封建社会の奇妙さが語られている。


 マイルズのシリーズとのからみで言えば、セルグ皇太子とヴォルラトイェル提督のからんだ極秘の事件がここで起きる。マイルズの忠実なる侍臣、フランケンシュタインのようなボサリもからんでいる。また、アラールが子供の頃起こったバラヤーの内乱や、アラールが活躍したコマールでの作戦についても触れられていて、バラヤーの歴史を知ることができる。書かれた年代としてはこちらの作品のほうが古いので、これから読み始めても問題ないと思う。面白いけれどマイルズが出てこないのが不満(笑)。