『天冥の標9 ヒトであるヒトとないヒトと』(Part1・Part2)
Part2では、イサリがハニカムで、カドムやアクリラがMMSで、停戦へ向けて準備を進める。《
『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと』(Part1)
- 著者:小川一水
- 出版:早川書房
- ISBN:9784150312138
- お気に入り度:★★★★★
カドム、イサリらは、ラゴスの記憶を取り戻すべく、セレスの地表に横たわるというシェパード号をめざしていた。それは。メニー・メニー・シープ世界成立の歴史をたどる旅でもあった。しかし、かつてのセレス・シティの廃墟に到達した彼らを、倫理兵器たる人型機械の群れが襲う。いっぽう、新民主政府大統領のエランカは、スキットルら《
ミヒルに連れ去られたゲルトールトは、ハニカムで懲罰房に入れられていたが、施設の改修などで役立ってみせ、やがて監視のスダカの信頼を得た。どうやらドックと呼ばれる区画が軍事上の重要施設のようだった。足が不自由な老婦人の助けを得て、ゲルトはドックに侵入した。広大な施設を破壊しようと小型戦闘機を激突させる。しかし、捕獲されてミヒルの元に連れて行かれた。だが、《
カドムたちを助けた2人組アッシュとルッツは、太陽系から来た艦隊の偵察部隊のロボットだった。大規模な艦隊がセレスの状況を確認するために迫ってきていた。2人はカドムたちの旅に護衛役として同行する。
カドム一行はアイネイアの残した座標を得てシェパード号を見つけ出した。記憶を整理して古い記憶を取り戻したラゴスは、普通の人間だった《
ラゴスの説明途中、《
自力でミスン族としての自我を見出し女王となったリリーは、母星へ通信で呼びかけていたが、イスミスン族の総女王オンネキッツから連絡を受けた。母星への帰還許可を求めたが、リリーたちはまだ当初の目標を達成できていないとして帰還を拒まれ、栄え増えるよう指示された。
リリーは新しい方針として繁殖を掲げた。彼女たちは増えることで高度な知性を保つことができた。子供はハニカム側で生まれて送り込まれていたため、繁殖可能な個体がハニカム側にいるはずだった。雄を得るためにハニカムへ行く必要があった。
この方針変更をクルミがエランカに伝えた。エランカは、カンミアはどんな国を目指すのか尋ねた。人間の求める豊かな国と未来には、カンミアや《
カドム一行はMMSに戻ることになった。MMSから迎えに来る航空警邏艦との合流地点へ向かう途中、イサリは一行と別れて《
ルッツたちが送った報告に紛れて、セレスのダダーは
これでようやくこの惑星の外側の状況が明らかになった。セレスは移動しているようだとは思っていたが、当初は地球から遠く離れた植民地が舞台だと思っていたので、その場所から地球へ向けて移動しているのかと思っていた。実際には逆で、太陽系から双子座ミュー星へと向かっていた。人間の身体を取り戻すためとはいえ、冷凍睡眠で300年もかけてそんなはるか遠くまで向かってしまうとは、《
『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと』(Part2)
- 著者:小川一水
- 出版:早川書房
- ISBN:9784150312312
- お気に入り度:★★★★★
セレス地表で世界の真実を知ったカドムら一行は、再会したアクリラとともにメニー・メニー・シープへの帰還を果たした。そこでは新政府大統領のエランカが、《
MMSに帰還したカドムは旅の成果をエランカたち新政府に報告した。カンミアやルッツからの情報も総合すると、双子座ミュー星に近づいたセレスはすでに減速態勢に入り、向かう先で《
新政府軍によって首都奪還作戦が実施され、
一方イサリは、逃げた《
やがて、イサリは皇帝とは異なる意見を持つ人々の信頼を得た。太陽系から艦隊が接近していることを警告する。
ラゴスは《
MMSで真実を広めて回っていたカドムは、地方都市で冥王斑患者の治療に協力していた。治療の合間に、立てこもっていたはぐれ
フォートピークの竪穴では、MMSの兵士が、電源室を守る非常に手強い敵スダカに苦戦していた。新政府はそこに、カドムやクルミ、投降した
MMSに戻って以来、アクリラたち《
MMS宇宙軍の攻撃と内部からの告発により、イサリは《
セレス北極に用意された拠点「
折しも、何者かが2PA艦隊の先遣隊を挨拶代わりに撃破してみせた。ラストはカルミアンの惑星近辺に集結した大勢の宇宙種族がセレスや2PA艦隊を待ち構えているというものものしいシーンで終了する。
ようやく人間同士の戦いを終わらせることに成功したカドムたち。しかし、まだたくさんの異星人が行く先には待ち構えているし、地球の様子もはっきりとはわからない。最大の敵であるミスチフをどう撃退するのかも未だ策はなく、前途はまだまだ多難である。
『天冥の標8 ジャイアント・アーク』(Part1・Part2)
シリーズ第8弾のPart1は、シリーズ第1弾をイサリの側から見た物語。ようやく最初の物語に繋がった。両方合わせて読むと事情がよくわかる。
また、文字通り暗闇に閉ざされて終わったシリーズ第1弾に、希望の光が差し始める。イサリは
Part2では、MMSの真の姿を知った人々が、新しい世界をどうするべきか模索する様子が描かれている。地上の様子を確かめに行くカドムたち一行の冒険と、新政府を樹立したエランカたちがMMSを復興していく様子と、復活を遂げたアクリラの物語が交錯する。
『天冥の標Ⅷ ジャイアント・アーク』(Part1)
- 著者:小川一水
- 出版:早川書房
- ISBN:978-4-15-031159-9
- お気に入り度:★★★★★
「起きて、イサリ。奴らは撃ってきた。静かにさせましょう」――いつとも、どことも知れぬ閉鎖空間でイサリは意識を取り戻した。ようやく対面を果たしたミヒルは敵との戦いが最終段階を迎えていることを告げ、イサリに侮蔑の視線を向けるばかりだった。絶望に打ちひしがれるイサリに、監視者のひとりがささやきかける――「人間の生き残りが、まだいるかもしれないのです」。壮大なる因果がめぐるシリーズ第8巻前篇。
カバーよりセレス南極に降着していたハニカムで、イサリはアイネイアを逃した罰として長期間眠らされていたが、皇帝により起こされた。
セレスには
途中、凄まじい光とドロテア戦艦を見た。案内役によると、セレスの中心核に竪坑を掘ってドロテアを入れ、惑星に重力を加えていた。彼の犠牲によって逃げ延びたイサリは、エレベーターでダダーに話しかけられて協定を結び、
そこではあまりにも平和な日常生活が営まれていて、驚くイサリ。しばらく隠れていたが見つけられて追われ、
現在は2803年で、イサリが眠らされて300年も経っていた。人々は《
イサリは事情を正しく知っていると思われた臨時総督に投降し、彼らが
イサリはカルミアンから言葉を習い始め、記憶も共有できることがわかり、急速にMMSの裏事情を把握し始めた。MMSはドロテアから電力を供給し、ダダーがそのことをMMS側にもドロテア側にも隠していた。また、臨時総督ユレイン三世は植民地側でただ一人事情を知り、
こうしたことをいっさい知らないMMSの人々の間では、臨時総督を倒そうとする動きが大きなうねりとなっていた。また、人々はドロテア戦艦をシェパード号だと勘違いしていて、臨時総督から奪おうとしていた。イサリだけは、それでは問題は解決しないとわかっていたが、止められなかった。
カドムとアクリラたちはフォートピークへ出発し、やがてMMSの全土が闇に包まれた。革命後に起きる事態にイサリは備えようとしたが、カルミアンの様子がおかしかった。
ついに
大統領に就任したエランカの一行が来たときには、首都オリゲネスは陥落し、彼女の恋人のラゴスはすでに出発していた。
冬眠状態の
ラストで竪坑に落下した後の痛々しいアクリラが登場している。
思えばずっと眠らされていたイサリは、起きている時間のみで考えるとまだ17歳くらいでしかない。せっかく忠告に来たのに、たいした働きができなくても不思議はない。
『天冥の標Ⅷ ジャイアント・アーク』(Part2)
- 著者:小川一水
- 出版:早川書房
- ISBN:978-4-15-031169-8
- お気に入り度:★★★★★
西暦2803年、メニー・メニー・シープから光は失われ、邪悪なる《
アクリラは食事をしながら話を聞いていた。しかし、その内容はとんでもないものだった。アクリラは何度も耐え難い目に合わされていた。
カドムは一命をとりとめた。フォートピークから脱出した人々は、ここがセレスの地下空間に作られた都市だとイサリから聞かされ、実際に見て確かめるために地表へ行くことにした。
カドム、ラゴス、イサリのほか、《
カドムは道中、対立するメンバーをまとめ上げ、話をし、イサリからも身の上話を聞く。ラゴスは本物のシェパード号を見つけて昔の記憶を取り戻そうとしていた。
一方、エランカはクルミが伝えたこの世界の真の姿を発表した。MMSは準惑星セレスをくりぬいた地下空間にあり、臨時総督府はそれを隠して地下から来る
政府を立て直し当面の食料や電気を回復させたが、
街を取り戻したものの、
カランドラとのやりとりで、《
地表を目指すカドムたち一行は、襲ってくる自動修復機械や
たどり着いた地表の宇宙港で数日探したが、シェパード号は見つからなかった。帰途についた一行は、イサリが見つけたリンゴの木から手がかりを得た。アイネイアの家が面していたコニストン湖がリンゴの先に広がっていた。
しかし
一方、アクリラは危機を脱し、上へ向かって走り出した。途中、年代物の同胞の服とコイルガンを見つけて身につける。真の敵はオムニフロラだった。彼が出たところは真空で、宇宙には2つの恒星が
まだ本調子ではないが、ようやくアクリラが復活した。最初から個性際立つ元気が良いキャラだっただけに、彼が活躍しないと勢いがつかない。だが、彼が遭わされた仕打ちは相当ひどい。このシリーズは、実はかなりエログロ満載なのだが、エロはシリーズ第4弾で不動だろうが、グロはここが一番ひどいかもしれない。
それにしても、300年経っても狭量な倫理観を押し付けてくる
『天冥の標7 新世界ハーブC』
惑星セレスの地下シェルターで暮らし始めたスカウトたちの物語。シリーズ第1弾の植民地メニー・メニー・シープの成り立ちと、それを支えた《
『天冥の標Ⅶ 新世界ハーブC』
- 著者:小川一水
- 出版:早川書房
- ISBN:9784150311391
《
シェパード号でセレスに墜落したアイネイアは、ミゲラと結婚し、重症のオラニエをフェオドールとカヨに運ばせて、スカウト仲間と合流した。ラゴスも無事だったが、他の《
スカウトたちが避難していた「ブラックチェンバー」は地下55階層にある広大な重警備階層で、5万人の子供たちが避難していた。救助は望めそうになく、大人たちは上層階を防衛して亡くなった。スカウトはオリゲネス幹部会(O.E.B.)を組織して何とかやりくりしていた。
ジニ号から運び込んだ物資も役立った。MHD社のロボットの操作権限を母親から委譲されたアイネイアは、ユレインにも同じ権限を与え、物資を
しかし、やがて破綻し始めた。火事や騒乱、略奪、感染症などで大勢が亡くなり、半分の区画を丸ごと閉鎖せざるを得なかった。また、暴動の鎮圧に使用した
ジョージ・ヴァンディに連絡してきたメララたちパラスからの避難者を受け入れた後は、チェンバーを完全に封鎖した。太陽系では通信すら観測されなくなっていた。
避難から半年が経ち、チェンバーでの生活はなんとか軌道に乗っていた。しかし、なぜかセレスで重力が増し、火山も無いのに地震が起きていた。
崩落事故をきっかけに、O.E.B.のメンバーの間で対立が生まれ始めた。アイネイアも政治信条の違いからミゲラと離れ、サンドラ・クロッソと暮らし始めた。チェンバーでは出産ラッシュが始まっていた。
地表の確認のためにロボットを送り出すと、《
やがて《
サンドラはしたたかだった。メララから以前聞いたことのある、戦争を予言したダダーのことさえおろそかにせず、羊を増やしてコンタクトを試みていた。
電力が弱まりミゲラとサンドラが対立した時も、サンドラがどのようにしてか電気の都合をつけ、勝利した。電気が増えたことで、メニー・メニー・シープの暮らしは日増しに豊かになり、平穏な生活が送れるようになっていた。サンドラは生まれてきた大勢の子供たちのために耳あたりの良い物語を作り、広めていた。本当の歴史はあまりにも辛すぎた。
サンドラの政権は長期政権として続き、腐敗した。2523年、オラニエたち《
メニー・メニー・シープの居住区は拡張できる限界に達したが、以前の崩落事故から人々は地下を嫌がったため、ロボットで地下空洞を掘削し、全地表*1をジャッキダウン、天蓋を支える大支柱を伸ばして空が高くなった。フォートピークは次第に山になっていった。
ラストは2555年で、老いたアイネイアとミゲラに、サンドラが二つの謎を投げかける。
- メニー・メニー・シープの電力はどこから来ているのか。
- その後現れた《
救世群 》は、なぜ地下から来たのか。
この答えは後の巻で明かされることになる。
天冥の標はライトノベルのような軽いタッチで描かれているが、内容は実に重い。特にこの巻は子供たちだけで生き抜かねばならず、当初スカウトが理想に掲げていた理念は、厳しい現実の前に崩れ、実に辛い巻となっている。仲間だったスカウトたちも、政治闘争により分裂する。また、人類が失ってしまったものがあまりにも大きすぎ、胸が痛む。
しかし、彼らは生き延びた。ラストでは人々が穏やかに暮らす、美しい町並みが広がっている。人々のたくましさと必死の努力や勤勉さが生み出した景色でもある。
*1:実際には地下