『無限記憶』

あらすじ

40億年におよぶ地球の時間封鎖を解くと同時に、謎の超越存在“仮定体”は巨大なアーチを出現させた。それをくぐった先は、未知の惑星“新世界”。人類がこの星と自由に行き来をはじめて30年が過ぎたある日、失踪した父親を追って一人の女性が“新世界”に降り立つ。一方、この地に不思議な能力をもつ少年が生まれ、大陸を謎の降灰が襲った。“仮定体”の謎に迫る『時間封鎖』続篇。

カバーより

 『時間封鎖』(感想はこちら)の続篇。一人称でタイラーの心情が綴られていた前作とはうって変わり、本作は三人称で進められる。時間軸も一つだけなのでシンプルで読みやすい。主人公が前作とは全く違っているのでこの作品単体でも読めなくはないが、設定や人間関係などに説明のない部分もあるので、やはり前作を読んでから読む方が楽しめるだろう。


 舞台となるのは『時間封鎖』で新しく出現した惑星“新世界”。この惑星のイクウェイトリア大陸には、人びとが地球から移り住んでいた。


 12年前に父親が行方不明となったリーサは、父親がどんな様子だったか聞きたいと、父親の当時の知人を探し回っていた。軽い気持ちで問い合わせていたリーサだったが、ある年配の女性の行方をパイロットのタークに確認したことで、思いもよらぬ危険な事態に巻き込まれてしまう。これには火星人や第四期の人びとが絡んでいた。親しくなったタークとともに、砂漠を逃走する羽目に。


 一方で、イクウェイトリア大陸には奇妙な灰が降り注ぐという異常な事態が続いていた。この灰にはゼンマイなどのパーツが燃え尽きたような状態で混じっていて、“仮定体”と関係あるのではないかと噂されていた。降灰はさらに深刻になってゆく。そしてその灰が寄り集まり、そこから得体の知れない何かが生成されていた。


 砂漠の集落で暮らす特殊な子供アイザックは、この灰が成長し、目のついた薔薇のようなものへと変化するのを目撃する。そして彼は西の方面に埋まっている何かに強烈に惹き付けられるように感じていた。


 感想などを読むと前作の『時間封鎖』の方が面白かったという意見が多いのだが、私自身はこちらの方が面白いように思う。前作は異様な状況に置かれた人びとが、日常生活を送るためにどうバランスを取って生きてきたかという点がクローズアップされていた。面白いのだけれども日常色が強すぎて、SFとしては少し物足りなかった。


 本作はスケール感は前作には劣るものの、灰から生成されるシュールな情景がとても面白い。これらはどんどんエスカレートして巨大化し、なぜかアイザックに興味を持ってアクションを起こす。物語が進むに連れて異様な様相がますます展開していて面白い。またアイザックがどういう子供なのかにも興味をそそられる。


 次作でどんな風に展開するのか全く予測もつかないけれど、早く続きが読みたいものだ。