『ボーンシェイカー』

あらすじ

ブライアはライフルとガスマスクを手に、閉ざされた街へ降り立った――息子を救えるのはあたししかいない! 掘削用ドリルマシン〈ボーンシェイカー〉が暴走し地下の毒ガスが噴出、シアトルの街は見境なく人間を襲う〈腐れ人〉が跋扈する地獄と化し、高い壁で閉鎖された。ブライアは、消えた父を追って街へ入った息子ジークを救うため、自らも壁の内側にむかう……。ネオ・スチームパンクの旗手によるローカス賞受賞作!

カバーより

 史実とは異なる19世紀のシアトルを舞台に、たくましすぎる肝っ玉母さんブライアが息子ジークを捜して、腐れ人やマッドサイエンティストと対決する冒険譚。


 1863年、天才発明家レヴィティカス・ブルーの創った〈途方もない骨まで揺るがすドリルマシン〉は暴走し、シアトルの地下を大きく破壊した。その後、地下から吹き出た毒ガスのために、奇妙な致死性の病が蔓延した。この〈死病〉にかかると人々は死んでも甦り、腐れ人*1となって他の人間を襲い始める。これを防ぐために防壁が築かれはじめ、1年後には街は高い防壁で囲いこまれてうち捨てられた。


 そんな事件から15年後。発明家ブルーの元妻だったブライアは、息子のジークが壁の内側へ出かけてしまったことを知り、後を追う。ジークは父親のことを知りたがっていて、壁の内側のかつて両親が住んでいた家に向かおうとしていた。ブライアはジークが入ったトンネルへ向かうが、息子が戻って来る前にトンネルは崩落。閉じ込められたジークを無事に連れ戻そうと、ブライアはドラッグを仕入れに行く飛行船に乗せてもらって壁の中へ向かおうと試みる。ブライアとジークの壁の内側での冒険が描かれている。


 SFというより、どちらかというとゾンビゲームのシナリオのようだ。とはいえ、リアリティはそこそこある。壁の内側にはそれなりに人も住んでいて、ポンプで上空から空気を引き込み、腐れ人から逃れながら生活している。ガスマスクは必須だが、弁髪の中国人が居住区をつくっていたり、ミンネリヒトと名乗る狂人が街を仕切っていたりする。


 腐れ人に追われながらもブライアは、巨大な幻惑砲を抱えた鎧の男スワックハマーや、両腕が無く義手のルーシーたちに助けられながら、ジークを捜す。あちこちで噂にのぼっているドクター・ミンネリヒトはあやしげな機械をいくつも発明していて、実はレヴィティカス・ブルーではないかとささやかれている。しかし、だれも彼の素顔を見たことがない。彼の正体が見どころのひとつだ。


 冒頭の親子喧嘩のあたりがちょっとまだるっこしいが、読んでみるとそれなりに面白い。癖のある登場人物が何人も登場するし、次から次へと危機がせまり、飽きさせない。ジークはちょっと危なっかしくてヒヤヒヤするが、女性陣がやたらとたくましく、荒くれ男たちは意外と紳士的にふるまうあたりが感じ良い。ドリルマシンをはじめ、得体のしれない機械類が登場するのも面白い。


 処女作ながらこの作品はなかなか好評だったようで、ローカス賞を受賞し、さらに《クロックワーク・センチュリー》シリーズと銘打たれて続篇もすでに3冊書かれているようだ。


 また、表紙のイラストとレイアウトが良い。この物語は味のあるイラストレーターに描かせるとすごく引き立つ内容だと思う。漫画化するのも映えそうだ。ちなみに、映画化はすでに決定しているそうだ。特撮やアクションが満載なので、なかなか面白いものになりそうだ。

*1:要はゾンビ