『アレクシア女史、女王陛下の暗殺を憂う』

あらすじ

異界族と人類が共存するヴィクトリア朝ロンドン。伯爵夫人アレクシアは妊娠八カ月を迎えた。お腹の子の異能を恐れる吸血鬼の執拗な攻撃に、人狼団はある秘策を打つ。そんななか消滅寸前のゴーストが現われ、女王暗殺をほのめかした。凶事を防ぐべく暗中模索の捜査を始めたアレクシアは、やがて夫マコン卿と人狼団にまつわる過去の秘密と出会う――謎解きとユーモアと叙情が贅沢に織りなすスチームパンク冒険奇譚、第四弾

カバーより

 英国パラソル奇譚シリーズ第四弾。


 あいかわらず元気すぎる妊婦、アレクシア。大きなお腹を抱えてよたよたしながらも、妊婦とは思えないほど駆け回る。そしてそれ以上に、食べる、食べる。


 魂盗人ソウル・スティーラーらしきアレクシアのこどもを警戒し、襲撃をしかけてくる吸血鬼たちをおとなしくさせるために、アレクシアたちは一計を案じた。それは、産まれてくるこどもをアケルダマ卿の養子にすること。ただしそれは表向きで、アレクシア夫妻はアケルダマ卿の隣の家に引っ越したと見せかけて、実際にはアケルダマ卿の家のクローゼットに住むことになった。


 こうして、引っ越し騒ぎで大忙しのアレクシアの元に、あるゴーストが現われて、女王の命を狙う計画が企まれていると忠告した。女王陛下の命が危ないとあっては一大事。アレクシア達は調べを進める。


 OBOがからんでいるというアイヴィーの直感を信じ調べるうちに、20年前にキングエア団のからんでいた未遂に終わった事件との関連が浮かび上がってきた。マダム・ルフォーに協力を求めるが、なにやら忙しすぎて余裕がない。しかたなく、アイヴィースコットランドに送り込む。意外と優秀にスパイをこなすアイヴィー。ところが、この調査は思いもかけない過去を暴きだしてしまう。


 一方、数奇な運命に翻弄されるビフィは、変身をうまく制御できず大暴れしていた。彼が団にうまく馴染めるよう、アレクシアも相談に乗る。


 前回のアレクシアは逃げてばかりでいまいちだったけれど、今回はアレクシアがちゃんと活躍していて面白かった。しかも、今回大暴れするのは巨大メカタコ自動タコオクトマトンだ。いくらなんでも巨大すぎだし荒唐無稽すぎるだろうとは思うのだが、このシリーズにリアリティなんて誰も求めないだろうから、このくらい派手にやらかす方が面白い。この作者、見せ方がうまいなぁと思う。


 今回はずいぶん多くの謎が明らかになった。とりわけライオール教授のあまりの策士ぶりに脱帽だ。彼らの過去にそんな複雑な事情があったとは。根っからのベータである。また、アレクシアの父親についても明らかになってきた。こんな彼がどういう事情でアレクシアの母親と結婚したんだろうか。そして、相変わらず事態をひっかきまわすアレクシアの妹フェリシティ。今回は引っ越し先に押しかけて居候し、さらに思いもかけないところでアレクシアに見つかった。そこまでやるとは。


 ラストはあまりにド派手な大騒動となった。けれども、アレクシアが見事な采配の手腕を発揮して解決となる。結局これこそが彼女の実力だろう。また、ウールジー団の未来を大きく左右することになる重大な決定を、アレクシアは人狼たちが変身している間にくだしてしまった。そしてついに赤ん坊が誕生。それにしても、妊娠直前にこれだけ動き回るとは…。


 次回はついにアレクシア達の娘、「チビ迷惑」改め、プルーデンスの能力が明らかになるのだろうか。魂盗人の能力とは、触った異界族に変身する能力なんだろうか? 次回の展開はまったく読めないが、今回これだけ派手にやらかしたからには、最終回はもっと派手にやらかしてくれることをおおいに期待したい。

〈英国パラソル綺譚〉シリーズ構成

  • 『アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う』 感想
  • 『アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う』 感想
  • 『アレクシア女史、欧羅巴で騎士団と遭う』 感想
  • 『アレクシア女史、女王陛下の暗殺を憂う』 本書