『クリスタル・レイン』

あらすじ

ナナガダは孤立した惑星だった。300年前、異星種族テトルの侵略を阻止するためワームホールを破壊した際に、先進テクノロジーも同時に失ってしまったのだ。苦難の末に植民地を再建したものの、現在では蒸気機関により飛行船や鉄道が人々の生活を支えていた。だが、怖るべき事態が起こった!生き残った少数のテトルは、峻険な山脈で人類植民地と隔てられた地にアステカと呼ばれる帝国を築きあげ、大進攻を開始したのだ!

カバーより

 作者がカリブ海の島国グレナダの出身だそうで、ちょっと毛色が変わった印象のあるSF。登場人物達の髪型はやたらとドレッドロックスだし、オアシクトルなどあまり聞き慣れない名前の登場人物が多いし、カリビアンな文化があちこちに登場している。個人的には、もう少し現実離れしている方が好み。戦争が主題となっているので、やたらと血なまぐさい。


 神に生け贄を捧げる宗教を持つアステカは、難攻不落と思われたマフォリー峠を突破し、生け贄とする人間を求めてナナガダに進攻して来た。過去の記憶を無くしたジョン・デブルンは、ナナガダで家庭を築いて暮らしていたが、進攻して来たアステカに捉えられてしまう。家族と離ればなれとなってしまうジョン。ジョンに記憶は無いものの、いわくのある過去があった。ジョンの過去を知る人物達がその秘密を求め、彼の周囲に陰謀が渦巻く。


 一方、ナナガダを防衛するマングース隊を率いるハイダン将軍は、ジョンを蒸気船の船長に任命した。ジョンの任務は北のスターポートへと向かい、失われた父祖のテクノロジーを持ち帰ること。そのテクノロジーは「マー・ウィー・ジュン」。アステカの進攻を阻止する切り札だ。20年前にもジョンは北へ向かう飛行船団の航海長を務めていた。しかしその探索は失敗に終わり、ジョンは片腕を失った。果たして今回は無事に辿り着けるのか、「マー・ウィー・ジュン」とは何なのか、アステカの進攻を食い止めることができるのか。


 SF的にはたいして驚く程のこともない。蒸気機関が主流のテクノロジーとなっているが、かといって現状の蒸気機関以上の新しい試みがあるわけでもないので、スチーム・パンクとは言いがたい。父祖のテクノロジーも、特に新しさはなく推測がつく程度のものだ。だが、冒険物としてはそれなりに面白い。最初読みはじめた時の印象よりも、読み進めると思った以上に面白かった。おそらく登場人物達の個性が光っているからだろう。


 続篇もあるようで、同じ宇宙を舞台に、ここにも登場した人物達が今度は宇宙空間で活躍するようだ。テオトルとかロアのことがもっと描かれそうだし、SFとしての要素が多くなってもっと面白いかもしれない。